文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第21回】シュンギク
2017/09/05
シュンギクの栽培には株ごと収穫する方法と、若いわき芽の茎葉を順次摘み採って収穫する方法があり、小家族の家庭菜園には、少しずつ収穫できる後者が便利です。食卓のわき役ですが、おひたし、天ぷら、冬は鍋物、すき焼きにと欠かせない一品。小面積でも作っておくと何かと利用価値が高い野菜です。アブラナ科が多くなりがちな葉菜類の中で、輪作に貴重なキク科でもあります。
分類と生態
原産地:地中海沿岸
科名:キク科キク属
連作障害:あり(1〜2年空ける)
生育適温: 15〜20℃前後
作型と栽培
生育適温が低めなので、春まき栽培と秋まき栽培が一般的
起源は地中海沿岸といわれていますが、ヨーロッパでは食用には利用されなかったようで、野菜としての栽培は中国が原産地です。生育適温は15~20℃前後と低めなので、春まき栽培と秋まき栽培が一般的です。ただ、温度に対する適応の幅は比較的広く、寒さや暑さにも比較的強いため、晩秋はトンネルでの保温、冬季はハウスでの加温、夏は冷涼地だけでなく温暖地でも日よけをするなどで経済的に成り立つ栽培が可能。よって専門の農家では周年栽培が行われています。
栽培方法は、株採り栽培と摘み採り栽培の2通り
栽培方法には2通りあります。一つは、ホウレンソウやコマツナなどのように株ごと収穫する株採り栽培。もう一つの方法は、主茎を下から葉を4枚残して摘み採ってわき芽を伸ばし、伸びたわき芽も下から2葉残して収穫する方法です。これを摘み採り栽培といい、摘み採りを繰り返しながら1株当たり5~6回収穫します。品種も株採り栽培に向く品種、摘み採り栽培に向く品種があるので、タネ袋の情報を確認して購入します。
また、シュンギクは葉の大きさと形状(切れ込み具合)で、大きく大葉種、中葉種、小葉種の3タイプに分かれます。葉の切れ込みは大葉種が浅くて少なく、小葉種になるほど切れ込みは深く細かで多くなります。地方により好みが分かれるようですが、個人的には中葉種が葉も柔らかく、比較的暑さ寒さにも強く作りやすいのでおすすめです。
シュンギクの作型例(温暖地の場合)
各作型の特徴と栽培のポイント
[春まき栽培]
3~5月にタネをまく春まき栽培は成長が速いため、早め早めに収穫する必要がある。気温が高くなってくると、とう立ちしやすい。
[秋まき栽培]
8~9月にタネをまく秋まき栽培は降霜に注意が必要で、露地栽培での収穫期間はあまり長くない。
栽培手順(温暖地の場合)
1.植え床の準備
タネまきの2週間前に1平方メートル当たり堆肥1.5L、ボカシ肥料100gを施して耕します。通路幅を50cm取り、植え床幅70cm、高さ15cmの畝を作ります。タネはすじまきにしますが、植え床幅70cmでは2条まきにします。
〈小面積の場合〉
小面積の場合は植え床の縦方向にすじを作る一般的な方法よりも、植え床を横切るように作る横切り作条(よこぎりさくじょう)が便利です。この場合は、条間20cmのすじまきにします。厚さ1.5cm程度の角材などを使って鎮圧をして、深さ1cmのまき溝を作ります。
2.タネまき
まき溝にタネが多少重なるくらいにすじまきにします。その上に土をタネがかろうじて隠れる程度に薄くかけて表面を軽く押さえます。水やりは、まいたタネを流さないように静かに丁寧に行います。発芽するまでは乾燥しないように注意が必要。新聞紙や切りわらなどで畝を覆うと乾燥防止に効果があります。
3.間引き
タネまきから1週間ほどで発芽します。生育に合わせて3回ほどに分けて間引きながら株間を広げていきます。間引きのたびに株元に土を寄せます。1回目は、本葉が1~2枚のころに、株間3cm程度に間引きます。間引いた株は、発芽が悪くて欠株になりそうな場所に移植します。2回目は、本葉3〜4枚のころに、地際からハサミで切って株間6cm程度にします。3回目は、本葉が5〜6枚のころに最後の間引きを行い、最終株間を春まき栽培では10~15cm、秋まき栽培では20cm程度にします。横切り作条の場合も最終株間は同じです。
間引くときは残す株を傷めないように十分に注意するとともに、間引きのたびに、残した株がぐらつかないように株元に土を寄せます。
4.病害虫対策
〈害虫〉
春はアブラムシ、秋はヨトウムシが発生します。葉を小まめに観察して、見つけ次第捕殺します。
〈病害〉
べと病や炭そ病が発生します。肥料をやり過ぎないように注意し、風通しと採光をよくして多湿にならないように管理します。
5.収穫
春まき栽培では、草丈が10〜15cmに伸びたら、下の葉4枚を残して成長点から10cm弱の長さで摘む「摘み採り」で収穫を始めます。わき芽が伸びてきたら、それも10cm程度の長さで収穫します。春先は成長が早くとう立ちするので、摘み採りが遅れないようにどんどん収穫します。摘み採りのときは、ハサミを使うとよいでしょう。
また、草丈が20cm程度(本葉7~8枚)のときに根を付けたまま株ごと抜く「株採り」で収穫し、ハサミで根を切り落とす方法もあります。
秋まき栽培では、草丈が25~30cm(本葉10枚)になったら下の葉4枚を残して摘み採りで収穫を始めます。その後、伸びてくるわき芽の下の葉2枚を残して収穫する摘み採りを繰り返します。このときも、ハサミを使うとよいでしょう。
有機栽培のコツ
秋まき栽培は寒害を受けないために適期の作業を心掛ける
シュンギクは温度に対する適応の幅が比較的広く、寒さや暑さにも比較的強いのですが、秋まき栽培の収穫期に何度か霜が降りると、葉の先端が黒くなり成長が止まってしまいます。暖かい地域なら不織布などのトンネル被覆で収穫の継続が可能な一方、寒さが強い年や、寒い地域ではトンネルによる寒害防止効果も長くは期待できません。春まき栽培のとう立ちに注意が必要なだけでなく、秋まき栽培でも順調な発芽と生育、そして早めの収穫が栽培成功のポイントになります。そのためにも適期の作業を心掛けましょう。
次回は「ホウレンソウ」を取り上げる予定です。お楽しみに。