文
佐倉朗夫
さくら・あきお
1975年、東京教育大学農学部卒業。神奈川県農業総合研究所や民間企業で野菜栽培の経済性や環境保全型農業の研究、有機野菜の栽培技術向上に取り組む。現在、明治大学特任教授、黒川農場副農場長。同大学リバティアカデミー「アグリサイエンス」講座で市民を対象とした有機農業講座を担当。著書に『有機農業と野菜づくり』(筑波書房)、『佐倉教授「直伝」! 有機・無農薬栽培で安全安心な野菜づくり』(講談社)、『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)などがある。
【第23回】コマツナ
2017/11/07
コマツナは結球する必要がないために栽培期間が短く、土質もあまり選ばないので比較的簡単に、一年を通して作れます。それなのに、カロテン、ビタミンC、鉄分、カルシウムなどが多く含まれるのはよく知られた話。とても優れた野菜の一つです。家庭菜園で作らない手はないですね。暑さよりも寒さに強い性質なので、秋から冬が作りやすく、品質もよくなるので、早速、タネをまいてみましょう。
分類と生態
原産地:ヨーロッパ東部
科名:アブラナ科ブラシカ属
連作障害:あり(1〜2年空ける)
生育適温: 15〜25℃
作型と栽培
ヨーロッパ東部をふるさととして、中国を経て日本に渡来
コマツナは多彩な種類があるアブラナ科ブラシカ属の野菜の一つですが、遺伝的にはカブやノザワナに近く、ハクサイに代表されるアブラナ(ハクサイ)類の仲間です。さらに流通や生産など園芸上の分類では、アブラナ類の中でハクサイ以外の結球しない葉菜を指すツケナ類に分類されています。
アブラナ科野菜の原産地はヨーロッパ東部の亜寒帯地方だといわれていますが、野菜として発達したのは中国で、ツケナの原産地は中国といった方がよいようです。日本へは古くに中国から渡来し、各地で多くの品種が成立した中で、東京都江戸川区小松川地方に順化したツケナに与えられた名称がコマツナだということです。
全国各地にさまざまな葉形と栽培方法が存在
コマツナは、関東地方、特に東京近郊で市場出荷用に栽培されていましたが、栄養価、市場性が評価され、近年は広く全国的に普及しています。小松川のコマツナとともに、各地方にもさまざまな葉形を持ったコマツナや栽培方法が存在しており、店頭で見かける姿や大きさも小松川のコマツナとは異なったものもあり多様です。
さらに近年は、耐暑性や食味のよいものが求められる中、同系統の他の野菜との交配が盛んにされており、チンゲンサイとコマツナの性質を併せ持つ「味美菜(アジミナ)」など、新しいツケナとして名称もいろいろなものが出てきています。従来からの品種としては、長葉系と丸葉系がありますが、耐暑性や耐寒性が優れている丸葉系が主流になっています。
タネまき時期に合った品種選びが栽培ポイントの一つ
生態的特性は、ダイコン、カブ、ハクサイなど同じシードバーナリ型※で、花成(かせい=花芽が形成されること)との関係でタネまき時期が重要になります。しかし、結球しないので葉枚数の確保の必要性がなく、寒い時期でも60日程度と生育期間も短いため、低温による花芽分化をそれほど心配する必要がないことが栽培を容易にしています。一方で、収穫対象となる茎葉は、外葉などに保護されずに露出しているので凍霜害を受けやすく、周年栽培を行う農家では冬季や寒冷地などはハウスやトンネルによる保護がなされています。
発芽適温は20~30℃、生育適温は15~25℃なので、栽培に適する季節は春と秋です。冬にタネをまいて春に収穫する場合は晩抽性品種を、低温期の栽培では低温伸長性品種を、高温期の栽培では茎があまり伸びずに徒長しにくい品種を選びます。
※発芽当初から低温に感応する性質。
コマツナの作型例(関東の平坦地を標準とする)
各作型の補足事項は下記の通りです。
[秋まき栽培]
最も作りやすい作型。霜が降りる時期にはトンネルを掛ける。
[春まき栽培]
生育初期の低温に注意。心配な場合はトンネルを掛ける。
栽培手順(温暖地の場合)
1.植え床の準備
タネまきの2週間前に1平方メートル当たり堆肥1L、ボカシ肥料100gを施して耕します。通路幅を50cm取り、植え床幅70cm、高さ15cmの畝を作ります。
70cm幅の畝に、1~2cm厚の角材などを使って表面を鎮圧して深さ1cmのまき溝を3条作ります。
〈小面積の場合〉
小面積の場合は、植え床の縦方向にすじを作る一般的な方法よりも、植え床を横切るように作る横切り作条(よこぎりさくじょう)の方が畝を有効に使えます。この場合は条間を20cmにします。
2.タネまき
溝の底に、厚まきにならないように1cm間隔を目安にタネをまきます。土は溝を埋めるように薄く掛け、手のひらでしっかりと押さえます。足で踏み付けても大丈夫なので、しっかりと鎮圧しましょう。
3.間引きと土寄せ
〈1回目〉
発芽がそろったら、まず混み合ったところを間引きますが、株が小さいのでピンセットを使います。間引いた後、株がぐらつかないように必ず土寄せを行います。
〈2回目〉
2回目の間引きは、本葉が1~2枚のころに、隣同士の葉が触れ合うか触れ合わない程度の間隔を空けて間引き、1回目と同様に土寄せを行います。
〈3回目〉
3回目の間引きは、草丈が7~8cmか本葉が4~5枚になったら、収穫も兼ねて混み合ったところを間引き、最終株間が10cm程度になるようにします。
4.追肥
追肥は必要ありませんが、生育が悪いなど気になる場合は「ネイチャーエイド 有機の液肥」などの液体肥料を使うとよいでしょう。希釈倍率は少し薄めの500倍程度にします。
5.病害虫対策
〈害虫〉
ヨトウムシ、アオムシ、カブラハバチなどが発生します。葉を小まめに観察して、見つけ次第捕殺します。カブラハバチは10~11月によく発生しますが、風通しが悪く、密植で軟弱に育ったときに発生するようです。間引きなどの管理をしっかりと行っていれば大きい被害になることはありません。
〈病害〉
白さび病、炭そ病が春まき栽培、秋まき栽培ともに発生します。特に雨が多いときに多発する傾向があり、そのようなときにビニールトンネルの雨よけは効果があります。また、白さび病は多くのアブラナ科に発生する病害でもあり、一度発生すると毎年発生することが多い病気です。対策としては、そうならない前にアブラナ科以外の野菜との輪作が必要です。
6.収穫
草丈20~25cmが収穫適期です。収穫は株元近くの葉身をつかみ、根を付けたまま引き抜きます。収穫までの日数は、タネまきが夏〜初秋なら30日かかりません。大きくなったものから順次収穫していくつもりで、早めに収穫します。採り遅れは味が落ちるので、くれぐれも収穫適期に採るようにします。
有機栽培のコツ
適切な間引きで充実した株に育てよう
コマツナをおいしくするコツは、一株一株を大きく立派に育てることです。そのためには3回の間引きで適切な株間を確保し、茎を太らせ充実した株にします。また、間引きの際の土寄せを忘れずに行い、株がぐらつかないように育てます。
次回は「緑肥(春〜秋まき栽培)」を取り上げる予定です。お楽しみに。