制作・文・写真
青木純子
あおき・じゅんこ
園芸家・フォトグラファー。京都市在住。庭で育てた草花を使い、生花のアレンジや押し花、ドライフラワーを作るアフターガーデニングを提案。2015年から『ガーデンフラワーカレンダー』(主婦の友社)を発行。ホームページはhttp://www.j-aoki.gr.jp/
【第29回】バラが咲き誇る5月の松江イングリッシュガーデン
2016/05/02
華やかなバラと美しい新緑、そして宿根草たちの競演が楽しめる5月。バラ愛好家にはたまらない季節の到来です。今月は、バラが咲き誇る松江イングリッシュガーデンの初夏をご紹介します!
無数の白いバラで覆われた豪華なバラのアーチがお出迎え
バラはもちろん、新緑も宿根草も見逃せない初夏
昨年10月の秋編、今年2月の春編とお届けした松江イングリッシュガーデンの訪問記。いよいよ最盛期を迎えた5月のバラのご報告です。今月は、華やかなバラはもちろん、美しい新緑や初夏の宿根草なども一緒にご紹介します!
松江イングリッシュガーデンは9つの小さなフォーマルガーデンとランドスケープガーデン(ナチュラルエリア)から構成された、ガーデンルーム形式の英国式庭園。白いバラのアーチや銀葉の植物で構成されたホワイトガーデン、中央に日時計を配したバラのテラスなど、5月も見どころ満載です!
スイレンが池の水面を覆う初夏のナチュラルエリア
エントランス近くの大木のネグンドカエデを左に曲がると木製の橋に遭遇。この橋の右のエリアでは、初夏の爽やかな風に大木のシダレヤナギの葉が揺れ、無数のスイレンが咲く、心休まる静かな風景が広がります。角を曲がると急に現れる英国風ナチュラルガーデン。さまざまな樹木と初夏の花たちが醸し出す、本場イングリッシュガーデンを彷彿とさせるこの落ち着いた雰囲気はたまりません。
右奥はシダレヤナギ、濃いピンクの花は西洋シャクナゲ「太陽」、池の畔の白花は湿地性のカラー。水面を覆うのは白やピンクの温帯スイレン約20種とスタンバイ中のポンテデリアたち。
華やかなボーダー花壇が整形式ガーデンに彩りを添えて
ガゼボから整形された高い生け垣を抜けると、満開のピンクのバラ「ラベンダー メイディランド」で華やかなボーダー花壇が左側でお出迎え。そして右側には、美しく整形され、左右シンメトリーに整然と並んだレイランドヒノキ「レイランディー」の木々で構成された整形式ガーデンが突然広がります。さっきまで、緑に覆われたうっそうとしたナチュラルエリアにいたのが嘘のよう。これがガーデンルーム形式の、はっと驚かされる仕掛けの魅力です。緑一色の整形式ガーデンに鮮やかな色を添えるバラが主役のボーダー花壇。初夏に訪れると出合えるバラと整形式ガーデンのコラボです。
突然、目の前に広がるシンメトリーの整形式ガーデン
三角錐に美しく整形されたレイランディーの間から見えるように配置された深紅の一重咲きのバラ「レッドコート」。初めて訪問したとき以来、緑一色の整形式ガーデンに何色のバラが咲くのかずっと気になっていました。顔を見せてくれたのは、ピンクでも黄色でも、白でもない、深紅の一重咲きのバラ。八重咲きほど派手でなく、それでいて整然とした雰囲気に上品に色を添えるバラ、選んだチーフガーデナーのキース・ゴット氏のセンスに感服しました。この深紅のバラ「レッドコート」が、通り過ぎてきたナチュラルエリアと整形式ガーデンをつなぐ役目を果たすそう。
高い生け垣の後ろに見えるのはナチュラルエリアの池の畔のシダレヤナギ。
待ち望んでいた、白いバラのアーチの完成です!
アーチに誘引した「つるアイスバーグ」と薄ピンクのつるバラ「ロサ オドラータ」が満開を迎え、バラのアーチは迫力満点! 先に咲くのは「ロサ オドラータ」、続いて「つるアイスバーグ」。少しでも長くバラのアーチが楽しめるように、開花時期がずれるバラを選定したそう。また、「つるアイスバーグ」は、つるが伸びすぎず、多花性で、シュートが出やすいのが魅力です。アーチの白バラと木立性の四季咲き種の白い「アイスバーグ」が同時に咲き誇る頃が、ホワイトガーデンが1年で一番華やかに輝く時!
英国製ドーム型アーチの足元4カ所に「つるアイスバーグ」と「ロサ オドラータ」を1株ずつ、合計8株を植栽。夏の水やりは欠かさず、晴れた日は重点的に水をあげるとか。また、これほど見事なアーチを毎年完成させるために、2月の寒肥は欠かせないそう。緩効性の化成肥料、骨粉、牛ふん堆肥などを、根から離れた地中に埋めています。
樹木のコーディネートが絵になるサンクンガーデン!
ホワイトガーデンを通り抜けると、周囲より一段下がった見下ろす庭園「サンクンガーデン」(沈床式庭園)に到着。木々の間には、オレンジや黄、白のバラが点在し、ローズガーデンへとつながっています。
この庭園にはさまざまな個性的な樹木が植えられ、変化に富んだ植栽が見どころです。三角柱に美しく整形されたキンメツゲや、銅葉のスモークツリー、黄と緑の斑入り葉のグミ「ギルドエッジ」、その間に葉先がとがった銀緑色のユッカや銅葉のコルジリネ、ニューサイランなど、それぞれの葉の色や質感、形の違う植物が隣り合って植えられ、互いが引き立て合いながら展開。植栽の参考になります。
バラと宿根草や樹木の競演も美しい!
イギリスから取り寄せたレンガや敷石で作られた舗道に囲まれた花壇。歩道と花壇の仕切りは、キンメツゲの低い生け垣です。開園当時からある英国製のベンチに座ると、ホワイトガーデンとサンクンガーデンの全貌が臨め、咲き誇るバラと庭園のさまざまな緑の美しい光景が広がります。
松江イングリッシュガーデンでは、暖色の花色が多いバラに対比させるように、この時期ピークを迎えるデルフィニュームなどの宿根草の花色を白や紫、青に決めているとか。バラとのコントラストがはっきりするから、それぞれが存在感を主張し合って美しい絵が完成するのだとか。
庭園をゆっくり観察しながら歩くと見つかる、つるバラの誘引方法。キングサリのアーチ、入り口右で見つけた写真左の赤いバラ「レッドカスケード」、小輪のつるバラは、アーチから緑の麻ヒモで上に誘引されていました。また、写真右のバラは、ホワイトガーデン手前の大鉢で発見。鉢に固定した釣り糸で垂れるように、一枝一枝が下に引っ張られていました。じっくり観察しないと見つからない技。それぞれのバラの性格や場所、仕立て方に合った誘引方法は参考になります。
キングサリのアーチを抜けるとバラのテラス!
フジのように垂れ咲く黄花が愛らしいキングサリ。英国の職人手作りのアーチウェイにはキングサリが40本も道なりに植えてあるとか。残念ながら、バラのピークを迎える少し前に満開だったそう。この時季は、それぞれの宿根草や花木がばらばらにピークを迎えるから、見逃さないためにもターゲットを絞って足繁く通うのがおすすめです。入り口右ではクレマチス「ネリーモーザー」が、左では、白とピンクの花が個性的なハコネウツギがお出迎え。
1年で一番あでやかな瞬間を迎えたバラのテラス
イングリッシュガーデンに欠かせないローズガーデン。手前と奥のバラの絡んだアーチに囲まれた、中央に日時計を配置したバラのテラスです。テラスの四隅には、深紅のバラが絡む英国製の木製のオベリスクが設置され、バラを見せるテラスの演出は完璧です。
イングリッシュローズを中心に、比較的強健で花つきがよく、香りのよい四季咲き種のシュラブタイプ、25本を選定されたとか。花後、一斉に剪定すると一気に返り咲いて豪華だけど、秋まで長くバラを楽しんでほしいと花がらを取り除きながら少しずつ弱剪定するそう。バラの時季には、ゆっくり花を見ながら歩いてほしいと、名前が載ったパンフレットが配布されています。
バラのテラスを抜けると、小花が咲くナチュラルエリア!
「プリンセス ミチコ」などが咲くバラのアーチを抜けると、そこは出口に向かう日当たりのよいナチュラルエリア。その道沿いの左右のボーダー花壇では、薄紫や紫色のバーベナ「リギダ」などのかわいい小花がたくさん咲いていました。さっき通り過ぎた華やかなバラのテラスとうって変わったナチュラルな雰囲気に、高揚した気分も自然と和みます。足元の緑葉は、初夏から夏、秋にピークを迎えるスタンバイ中の宿根草たち。もう少ししたら、エキナセアやアガパンサス、夏にはルドベキアやヘメロカリスなどに出合えます。
森を抜けると、急に明るい整形式ガーデンが目の前に広がったり、薄暗いアーチウェイを通り過ぎたら、無数のバラが咲き誇る華やかなバラのテラスに出合ったり。10もの工夫を凝らした庭園が巧みに配置され、美術館巡りのように角を曲がるたびに違った景色が広がる松江イングリッシュガーデン。これがガーデンルーム形式で作られた庭園の最大の魅力です。また、計算された四季折々の草花と木々の緑が、年月を経て、それを感じさせない自然な雰囲気を醸し出すからたまりません。感動や喜びが大きいと記憶に鮮やかに残り、そして、その記憶をたどって再び訪ねたくなる。何度訪ねても飽きない魅力がそこにはありました。
追記:バラの季節に訪ねるなら、例年5月下旬~6月初旬がベスト。でも2月にご紹介した早咲きの整形式ガーデンの黄色いバラ「カナリー バード」は4月20日頃。また、ナチュラルエリアの橋に絡む赤やピンクのつるバラ「メイディランド」は6月中旬。それぞれのバラのピークがずれるから、数回に分けて訪ねると見逃しません。
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松江イングリッシュガーデン
島根県松江市西浜佐陀町330番地1
TEL 0852-36-3030
http://www.matsue-englishgarden.jp
次回は、ロンドン旅行記その1「リージェンツパーク『クイーン・メアリーズ・ガーデン』を散策」を取り上げる予定です。お楽しみに。