制作・文・写真
青木純子
あおき・じゅんこ
園芸家・フォトグラファー。京都市在住。庭で育てた草花を使い、生花のアレンジや押し花、ドライフラワーを作るアフターガーデニングを提案。2015年から『ガーデンフラワーカレンダー』(主婦の友社)を発行。ホームページはhttp://www.j-aoki.gr.jp/
【第30回】ロンドン旅行記1 ~リージェンツパーク「クイーン・メアリーズ・ガーデン」を散策
2016/06/07
20年以上も前に約半年滞在したロンドン。そのとき記憶に強く残った英国式庭園が王立公園リージェンツパークでした。もう一度原点に戻りたくて再訪問したリージェンツパーク、その永遠の魅力を今月はお届けします。
ロンドン市内の公園を巡るだけで英国式庭園が満喫できる!
王立公園リージェンツパークのすばらしさを再確認!
ロンドン市内の王立公園を巡るだけで、十分、英国式庭園が手軽に楽しめます。最も美しいおすすめの公園が、市内の中央に広がるリージェンツパーク。18世紀に建築家ジョン・ナッシュによってデザインされた約2平方キロメートルの広大な公園の敷地内には、400種類の1万2000本ものバラが咲くローズガーデンや動物園、オープンシアター、水鳥のいる湖、市民農園などがあり、人々が思い思いのひとときを過ごしています。
今回の再訪問では、リージェンツパーク内にある「クイーン・メアリーズ・ガーデン」のさまざまな魅力を2回に分けてご報告します。
ベーカーストリート駅からクラレンスゲートに!
リージェンツパークを再訪したのは昨年の6月末。入り口の花壇も春から夏へと衣替えをすっかり終えていました。上の写真はクラレンスゲート左のボーダー花壇。夏の草花、ベゴニアやイポメアなどが色ごとにまとめて植えられ、隣の草花とコントラストがついて、遠目でも美しいと感じる植栽です。
昔訪ねた時、終わりかけのスイセンをいっせいに抜いて整理し、春の植物と衣替えをするガーデナーたちの姿を目撃。中には、まだ咲いているものもあり、花がらだけ整理すれば来年も咲くのに…と驚いた記憶があります。今思えば、訪れた人たちのために、それぞれの季節の草花でコーディネートする花壇と決まっていたのでしょう。そうとは知らず、当時はスイセンの行方が気になって仕方ありませんでした…。
クラレンスゲート右の花壇、左と同じ植物を使って統一!
左のボーダー花壇と同じ種類の植物をグループごとにまとめて植栽。左右対称の位置にきっちりと合わせて植えていないから、統一感があるなかにも堅苦しさがありません。また、植栽に高低の変化を出すために、後方や中ほどに草丈の高いニューサイランやバナナの木などを植え、夏の演出もバッチリです。
角を右に曲がると、銀葉のシロタエギクがそれまでの植栽の流れを断ち切るかのようにまとめて植えられ、次の朱色の球根ベゴニアが主役の花壇へと展開。そこは薄緑のリーフで花壇を縁取りし、中を朱色の球根ベゴニアで埋め尽くす植栽です。角を曲がるたびに、「次はどんな植栽?」と期待でわくわくしてきます。
ジュビリーゲーツを抜けると「クイーン・メアリーズ・ガーデン」!
池沿いにボーダー花壇や鳥たちを眺めながら右に進むとヨーク橋に出合います。それを渡ると正面に見えてくるのが「クイーン・メアリーズ・ガーデン」の入り口、ジュビリーゲーツ。門越しに、咲き誇る無数の華やかなバラたちが垣間見え、自然と足取りも軽くなります。
一番に出迎えてくれたのはもちろん満開のバラ。広々とした芝生のエリアに、同じ種類のバラがひと区画ずつ植えられ、白や黄、ピンク、赤などに咲き誇る姿は圧巻です。見かけたのは、モダンローズのフロリバンダ系、強健で四季咲き種の「イージー ゴーイング」や「ブリタニア」、「イージー ダズ イット」など多数。それぞれに番号と品種名がつけられています。まわりの歴史を感じさせる樹木や、奥の花壇の紫や青、白のデルフィニュームを背景に見事なバラのパノラマが広がります。
バラに囲まれた歩道をそれぞれが思い思いに散策!
イギリスの国花はバラ。6月末のロンドンはまさにバラの季節です。バラの花壇の中央を歩道が通り、訪れた人々はバラを楽しみながらひとときを過ごします。ここ王立公園リージェンツパークの入園料は無料。一年中、朝5時からオープンし、特に5、6、7月のバラの季節は日没の夜9時まで開いています。
以前滞在した時、まだ明るい夜8時頃、ローズガーデンを訪れるのが最高の楽しみでした。昼間に比べ静かな雰囲気の中、落ち着いてバラたちを眺められます。おまけに、夜の冷たい空気にバラの香りが濃縮されたかのようにあたりに漂い、むせるほど。ベンチに座ってバラの香りに浸るひとときは贅沢そのものです。時間のある方は、ぜひ夜のローズガーデンを散策してみてはいかが?
角を曲がると突然現れたベゴニアの庭園!
左手に寒色のデルフィニュームが群れ咲く花壇を見ながら進むと、突然現れる赤やオレンジの暖色でコーディネートされたベゴニアの庭園。子どもとカエルの銅像を中央に配した円形のガーデンは、まわりを整形された高い生け垣で囲まれ、左右対称に設置された数々の花壇で構成されています。主役は赤やオレンジの迫力のある球根ベゴニアたち。それぞれの花壇の縁取りに同じ配色のカリブラコアやライムグリーンのイポメアが植えられ、花壇に高さを演出するベゴニアを植えた黒いスタンド鉢やエキナセアなどが左右対称に効果的に配置されています。ガーデンルーム方式を使ったはっと驚かせる仕掛けはにくい!
日当たり抜群の乾燥エリアの植栽は、まるで参考書!
「クイーン・メアリーズ・ガーデン」のセントラルウォークを進むと、右手奥に日なたの乾燥した花壇が広がります。ヤシやユッカの足元に、ローメンテナンスなジャイアントキャットミントやローズマリー、サンジャクバーベナ、サルビア ネモローサ、ヘメロカリス、アガパンサス、ユーフォルビア、フウロソウなど、乾燥がお好みや乾燥に耐えられる植物たちが多数植栽されていました。乾燥しがちな日当たりのよい花壇やベランダの植物選びに、また、忙しくて水やりなど植物の世話がなかなかできない方に、お手本になるエリアです。
20年以上前、約半年ほどベーカーストリート近辺に滞在したことがあります。失業中の私は、「充電中…」と胸を張って、サンドイッチ片手にお昼になると毎日近くのリージェンツパークへ。鳥にエサをあげて遊んだり、美しい花壇を眺めたり。そんな時、ガーデナーが毎日せっせと植物の世話をするようすをよく見かけました。美しい数々のガーデンに魅了され、彼らの園芸に励む姿に感動し、いつのまにかロンドン市内の公園をくまなく歩き、ガーデニングにどんどんはまっていきました。これが、私のガーデニングの原点です。
帰国後、庭の改造をし、土壌改良。草花を育て、園芸だけでなくドライや生花のアレンジ、料理など、ガーデニングのあとの楽しみ、アフターガーデニングも楽しむようになりました。再び訪ねたベーカーストリート、おもわず昔のことを思い出しました。
花壇に高低差を演出する巧みな植栽術は見逃せません!
日なたのエリアには、アイランド花壇に高低差を出し立体感を演出する、そんな植栽が参考になる花壇がありました。手前に背の低いフウロソウやヘリクリサム、その後方に草丈約1mのアリウムやアガパンサス、花壇の中央には草丈が1.5mを超えるサンジャクバーベナやルリタマアザミなどを植栽。反対側は、その環境にあった植物で高低差を演出してありました。
また、この花壇を構成する植物たちはどれもローメンテナンスなものばかり。季節ごとに最低限の手入れさえすれば維持できる植栽です。入り口近くの花壇では、季節ごとにすべての植物を入れ替え、インパクトの強い見せる演出がしてあったけれど、広大な庭園を管理するガーデナーにとっても、季節の手入れだけで済む手間いらずの花壇がないと大変なはず。ナチュラルな雰囲気を見どころにした、手間いらずの花壇も必見です。
本場の英国式庭園、絵になる花壇です!
芝生エリアが日なた、反対側が半日陰のアイランド花壇。ぐるりと一周するだけで、日なたと半日陰で植えられている植物の違いがよくわかり、適材適所の植栽が教科書のようです。日なたのエリアには、セダムやアリウム、ヘメロカリスなど。半日陰エリアには、フウロソウやアストランティア、ギボウシ、クサソテツなど。中央には草丈が高いサンジャクバーベナやミソハギ、ルリタマアザミなどを植え、花壇に高低差を出して立体的に演出。計算された植栽なのに、自然な雰囲気を醸し出す植物選びは完璧です!
また、季節になるとそれぞれの宿根草の花が彩る植え込みだから、花を引き立てる葉ものの選び方も見逃せません。葉ものの色や形、触感に変化がつけてあるから、花のない季節も見ごたえがあります。
ナチュラルの次は個性的なガーデンが展開!
中央奥のトリトンの噴水の近くで見つけた個性的なふたつの花壇。ひとつはトロピカルな雰囲気たっぷりの花壇です。背景の木々との境には、整形された高い生け垣、そして手前に南国の木々が植えられ、その足元にはビビッドな花色の一年草が植えてありました。もうひとつは、手前に球根ベゴニアなどを植えた、らせん状や模様を描くように整形されたツゲのノット(結び目)ガーデン。織物のような幾何学模様に整形されたツゲの低い生け垣はユニークで目を引きます。季節ごとに手前の一年草を植え替えれば、また違った雰囲気が楽しめるはず。
わざわざ郊外の有名な庭園に行かなくても、ロンドン市内で半日余裕があれば、絶対おすすめの英国式庭園、王立公園リージェンツパークの「クイーン・メアリーズ・ガーデン」。見せる演出をした季節の花壇や乾燥エリアの植栽、そして手間いらずの宿根草などで構成したナチュラルガーデンなど、趣向を凝らした英国式庭園が堪能できます。まだまだ他にも見どころはたくさんあるけれど、それは次回の連載のお楽しみ!
私にとって「クイーン・メアリーズ・ガーデン」は園芸の原点。当時あこがれた庭園はあのころと少しも変わらず、季節の花や緑の美しさを、そしてガーデニングの楽しさを伝え続けていました。この「変わらない」美しい姿に、今回は感動してしまいました。
次回は、ロンドン旅行記その2「リージェンツパーク『クイーン・メアリーズ・ガーデン』と市民農園を散策」を取り上げる予定です。お楽しみに。