タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

 【第31回】ロンドン旅行記2 ~リージェンツパーク「クイーン・メアリーズ・ガーデン」と市民農園を散策

【第31回】ロンドン旅行記2 ~リージェンツパーク「クイーン・メアリーズ・ガーデン」と市民農園を散策

2016/07/05

初夏の「クイーン・メアリーズ・ガーデン」の一番の見どころはローズガーデン。かつて夕方に訪れ、バラのむせるような濃密な香りに酔いしれたローズガーデンです。今月は、再び訪ねたローズガーデンと市民農園をご報告!

ロンドン随一のバラのコレクションを誇る「クイーン・メアリーズ・ガーデン」

英国の国花、1万2000本ものバラが咲き乱れるローズガーデン!

ロンドン郊外のマナーハウスのローズガーデンと見間違えるほど、豪華に咲き誇るバラたち。実は、再訪したロンドン市内の王立公園、リージェンツパークの「クイーン・メアリーズ・ガーデン」のローズガーデンです。ジョージ5世がメアリー妃のために作ったガーデンで、1932年より一般公開されているそう。400種類を超える1万2000本ものバラが植えられ、5月下旬~6月初旬のローズガーデンは華やかそのもの! 王立公園だから、バラの季節は朝5時から日没の夜9時まで無料で開園しています。
観光客はもちろん、ロンドンっ子たちが思い思いにバラを楽しむ昼間は混雑しているから、訪ねるなら早朝や夕方がおすすめ。静かにバラを心ゆくまで楽しめます。地下鉄の駅(ベーカーストリート駅)に近いから、ちょっとのぞくと、見ごたえ抜群のバラたちと思い出に残るひとときが過ごせるおすすめのローズガーデンです。

円形のローズガーデンの外周を彩るのはランブラー系のバラ!

オールドローズからモダンローズまでさまざまなバラをそろえた「クイーン・メアリーズ・ガーデン」。85もの区画に、ひと区画ずつ、同じ種類のバラが植栽してあります。ちなみに1番の区画は、大女優のイメージにピッタリな深紅のバラ「イングリッド バーグマン」。それぞれの区画に番号と品種名の書かれた札が立ててあるから、時間をかけて1~85番まで探すのも楽しいチャレンジかも。また、18番の区画が、パークオリジナルの薄いオレンジ色のバラ「ロイヤルパークス」です。

「クイーン・メアリーズ・ガーデン」内にある円形のローズガーデン。等間隔に立てた柱に弧を描くようにロープを渡し、外周を囲んでいます

[1]入り口に立つ「グリーンフィンガーズ(緑の指を持つ園芸の達人)」と名づけられたトピアリー
[2]外周に立つ、白や薄ピンクの小輪のランブラー系のバラで覆われたオベリスク状の柱
[3]ローズガーデン入り口左に広がる黄色いバラの区画

[4]ローズガーデン入り口右、「グリーンフィンガーズ」から続くバラのレイズドベッド
[5]円形のローズガーデンの内側左。手前の薄ピンクのバラは6番の区画の「サイト セーバー」

まだ肌寒い今年の4月初旬にローズガーデンを再訪! 芽吹いたばかりの新芽がガーデンを赤く彩り、バラの季節に向けて準備万端でした。早春に訪れると、バラの剪定方法や植栽間隔、レイズドベッドの作り方、芝生のエッジの処理など、ガーデニング情報が簡単に手に入ります。

歴史を感じさせる、大木に囲まれたナチュラルエリア

ジュビリーゲーツから右奥にあるローズガーデンに向かって池沿いを歩くと、大木のイングリッシュオークやシダレヤナギ、メタセコイアなどが植栽された自然エリアに出合います。もちろん、ここも計画的に作られたもの。「クイーン・メアリーズ・ガーデン」に神秘的な空間を作るためにデザインされたとか。
大木のシダレヤナギを見つけた瞬間、どこかで見た記憶が…。そうです、松江イングリッシュガーデンのナチュラルエリアにあった池の畔のシダレヤナギです。水辺の植物やシダレヤナギ、そして巨木の数々が主役のナチュラルエリアにたたずむと、ロンドンの街中にいることをすっかり忘れてしまいます。

[1]池の畔の大木のシダレヤナギ。英名はweeping willow、和訳すると「泣くヤナギ」とか
[2]うっそうとした水辺の植物に覆われた池で、優雅に泳ぐブラックスワンはミステリアス!
[3]この池の西側に、日本庭園の島があるらしい

初夏に訪れたときには気づかなかった足元のスイセンたち。早春、池の畔のそこかしこで白や黄色のスイセンが咲き誇っていました。違う季節に訪ねると、前回気づかなかった植物たちの存在に驚き、発見がいろいろです!

思い思いに過ごす公園でのひととき

「クイーン・メアリーズ・ガーデン」内の池で青いボートを浮かべる人や、芝生でランチを食べる人、読書をする人など、それぞれが思い思いにゆったりと王立公園でのひとときを楽しんでいます。この緑の奥に隠されたすてきな庭園を巡ってきたあとは、ふと現実に戻った錯覚を覚えます。庭園巡りに疲れたら、のんびりと芝生の上で空を眺めるのも最高。こんな開放的な空間があるからこそ、工夫を凝らした庭園の数々が神秘的に思え、その印象がいっそう深まります。

ベーカーストリート駅近くのパブやタウンハウスの窓際を彩る数々のウインドーボックスやつり鉢。ロンドンのパブは黒い外壁が多いから、ウインドーボックスに少し華やかな花や葉ものを飾るだけでとっても引き立ちます。使っている植物は、日本でよく見かける夏の定番植物ばかり。ペチュニアやベゴニア、フクシア、アイビーなど。凝った植物は使っていないけれど、植物の配置や配色に工夫してあるから、どこか日本と違うコーディネートのセンスのよさを感じます。

フェンスに固定したフクシアやペチュニアのウインドーボックス。裏側に回ると、自動灌水装置と排水用ドレインを発見! これならフェンスを汚しません。細やかな配慮もさすがです!

ナチュラルエリアと芝生のエリアの境は、ボーダー花壇の連続!

ローズガーデンからの帰り道、芝生のエリアを散策していると、通り過ぎた大木の木々の茂みに沿って続くカーブの道沿いに、次々と現れる趣向を凝らしたボーダー花壇を発見! それぞれが横幅約10m、奥行き約3mの花壇です。共通するのは、手前に草丈の低い植物、奥に草丈の高い植物を配置した植栽方法だけ。あとは、それぞれの花壇で花の種類も色合いもまったく違います。曲がった道を歩きながら次々と遭遇する個性的なボーダー花壇、ガーデナーたちの工夫や努力に脱帽です!

[1]シルバーリーフのシロタエギクと赤い球根ベゴニアのコントラスを生かした植栽
[2]淡い緑のヘリクリサムの間に、黄色のベゴニアやバラなどを植えたやさしい配色が魅力
[3]黄色とオレンジのマリーゴールドの後ろは葉色が個性的なブロンズフェンネル

[4]バニラ色のマリーゴールドの後ろの紫花はサルビア ネモローサ、奥はトウゴマ
[5]バーベナやペチュニアの紫とマリーゴールドのオレンジ色のコントラストが華やか

リージェンツパークが運営する市民農園

「クイーン・メアリーズ・ガーデン」のローズガーデン入り口を出て、外周道路を渡ると小さな菜園に遭遇。 実はこの菜園、野菜や果樹の有機栽培の方法を、ボランティアのガーデナーたちが子どもや大人たちに教えている畑だそう。外周の壁面に這わせたエスペリエ仕立てのリンゴや、トマト、マメ類、キャベツ、アスパラガス、アーティチョークなどの数々の果樹や野菜を育てています。興味深かったのは、支柱の添え方。ところ変われば、支柱の添え方や誘引の仕方も違うから興味津々です!

[1]小屋に立て掛けた大きなかかし! 野菜の育て方を教わる子どもたちが見つけたら、きっと喜ぶはず!
[2]マメ科の野菜は連作障害を防ぐため、3~5年は同じ場所を避けるのが鉄則です。でも、木箱で育てたら、そんな心配必要ありません
[3]トマトの苗に直接支柱を添えないで、麻ヒモで上から引っ張ってありました! コンパニオンプランツのキンセンカも一緒に植えて
[4]虫除けネットで覆われた、イタリア、トスカーナ地方原産の超個性的な葉キャベツ、カーボロネロ

[5]大株のアスパラガスの畑。足元には、アブラムシなどの有害な虫から守るというラベンダーを植えて
[6]木で囲んだレイズドベッドの畑。土もよく耕してありました
[7]手前はタマネギ、奥はトウモロコシ。でも支柱を添えた野菜がわかりません…
[8]中央はアーティチョーク、右にローズマリー、左にセージ。モンシロチョウとヨトウムシを寄せつけない効果があるとされる植物を左右に植えて

2回にわたってご紹介した、私のガーデニングの原点となった庭園、リージェンツパークの「クイーン・メアリーズ・ガーデン」。いかがでしたか? きれいな庭園の裏に隠されたガーデナーの方々の熱意と努力。30年前に比べて、それをひしひしと感じられるようになっただけ成長したのかな、と思える再訪の旅でした。
新しい植物やガーデニングのアイデアに出合える庭園巡り。面白いもので、「帰ったら、こうしよう、あーしよう」と美しいガーデンを巡りながらも、すでに頭の中は新しく庭に取り入れたい植物や植栽方法など、ガーデニングのことでいっぱいでした。いつまで経っても、興味の尽きないガーデニング。「グリーンフィンガーズ」を目指してゆっくり長く続けよう、と原点に戻って再確認しました。

次回は、フレンチレストラン「ビストロ スポンタネ」が実践する、こだわりの野菜栽培の話題を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.