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 【第32回】フレンチレストランが実践するこだわりの野菜栽培

【第32回】フレンチレストランが実践するこだわりの野菜栽培

2016/08/02

家族の誕生日祝いにと訪ねたフレンチレストラン「スポンタネ」。ディナーで出合ったおいしい野菜たちが自家製野菜だと知り、急きょ取材を敢行! 今月は、「スポンタネ」のシェフ、谷岡さんの秋冬野菜作りをお伝えします。

野菜のうまみを活かしたシンプルでおいしいフランス料理

ひょんなことから始まったシェフの秋冬野菜栽培の密着取材!

評判を聞きつけ京都の西山にあるフレンチレストラン「スポンタネ」を家族で訪ねました。前菜のさっとゆでた5cm弱の小さなオクラのやわらかさと甘さにのっけからビックリ。そして次は、中央が赤く、まわりが緑のコントラストが美しいポタージュスープ。なんとお味は万願寺トウガラシでした! 中央は赤い完熟果を、まわりは緑の万願寺トウガラシを使い、オーブンで焼いて皮をむき、ミキサーにかけて牛乳や生クリームなどで味付けされたとか。この意表を突いた鮮やかな彩りとおいしさに、「これはスーパーの野菜じゃない!」と確信!

すかさず、マダムに野菜について聞くと、うれしそうに「近くの畑で、季節の野菜を無農薬で育てています!」というお返事が返ってきました。全8品を味わい終えた頃には、オーナーシェフの谷岡さんと手作り野菜の話で盛り上がり、秋のタネまきに急きょ参加することになりました。今月は、手作り野菜にこだわるフレンチレストラン「スポンタネ」の秋冬野菜作りのご報告です!

夏野菜の残る畑で、さあ秋冬野菜のタネまきです!

「タネまきから始めるのは手間ひまかかるけれど、手塩にかけて育てた野菜はウソをつかない」とシェフの谷岡さん。夏野菜のオクラやシシトウなどが残る広い畑で、シェフの上着を脱いだ谷岡さんがレーキで畝を丁寧に作っていました。
実はこの畑、シェフのよき理解者でありアドバイザーである五十棲(いそずみ)さんの畑。10年ほど前から、土作りから野菜作りまでいろいろ教わり、無農薬で季節の野菜を作っているとか。五十棲さんいわく、「野菜は失敗しても2カ月後に植え替えられる。でも、土は失敗できない」と。牛ふん、おがくず、堆肥、腐葉土などを10年かけてすき込み、土の団粒化(※)を目指してきたそうです。そんな五十棲さんに見守られ、谷岡さんは今では10畝を借りて野菜を作っています。

※土の団粒化…土壌の粒子が小さなかたまりを形成している構造。保水性に富みながら排水性や通気性もよく、作物の生育に適する土の状態。

                           
                
                
                                          
                                                           
                
                
                                          
                                

京都の九条を中心に古くから栽培されている緑の葉も白い部分もすべて食べられる九条ネギ。「揚げた根は香ばしいネギの味がして、料理の飾りに最高!」と谷岡さん。太く育てたいから間隔は「こぶし大」。五十棲さんのアドバイス通りに植えつけました。

必要なタネの数だけ適正な間隔を取って封入されたヒモ状のシーダーテープ。手軽にタネまきできるすぐれものです。今回はダイコン「天安紅心2号」のシーダーテープに初めて挑戦!

タネをまいたのは、赤や白のハツカダイコンや小カブ「あやめ雪」や津田カブ、青首ダイコンや紫のダイコン、そして黒のダイコン「くろまるくん」と各色(赤、紫、黄)のニンジン。最後にタネ袋を置いてタネまき完了です!

まだ実をたくさんつける万願寺トウガラシ(写真上左)とオクラの花(写真下左)。オクラは数本かためて植えることで(今回は2株植え)、収穫量が増えると五十棲さん。今日の収穫は左から時計回りに、シシトウ、ニンジン、オクラ、万願寺トウガラシ(赤いのは完熟果)、伏見甘長トウガラシ(写真上右)。

秋冬野菜がすくすくと成長している10月の畑!

タネまきから約1カ月たった10月上旬の畑。秋の晴天に恵まれ、野菜たちは順調そのもの。中でも、ハツカダイコンは収穫期を迎え、小カブ「あやめ雪」も採れました! 思ったより立派なカブたちが収穫でき、シェフの谷岡さんもうれしそう! 「野菜に正面から向き合い試作に試作を重ねると、素材そのものの活かし方がわかってくる」と谷岡さん。収穫しながら、料理の構想を練るのも楽しいひとときだとか。万願寺トウガラシなど夏の野菜を整理し土壌改良を終えた畝では、シュンギクやミズナ、レタスなどが新しく仲間入りしていました。

[1]何種類か植えたダイコンの成長しているようす。どのダイコンかな?
[2]順調に育つ九条ネギ。スープや焼いてカモ肉と合わせるとおいしいらしい
[3]9月上旬に苗を植えたジャガイモ「キタアカリ」。収穫は11月下旬~12月上旬とか
[4]緑葉がタネから育てた第二弾のハツカダイコン、銅葉は苗を植えたばかりのレタス

ハツカダイコンを収穫する谷岡シェフ(写真上左)。今日の収穫は、左からカブやハツカダイコン(白と赤)、小カブ「あやめ雪」など(写真上右)。今日も五十棲さんに見守られての農作業、「五十棲さんがいなかったら、ここまでやってこられなかった」と谷岡さん。今ではお二人とも、自他共に認める「野菜オタク」だそうです!

秋本番、いよいよダイコンたちの収穫です!

畑のカキの木が紅く彩り始めた11月中旬、畝に沿って勢いよく育つ青々とした緑葉の姿をひと目見ただけで、9月にタネまきした秋冬野菜たちや途中で苗を植えたレタスやニンジンなどの生育が順調そのものだとわかります。ハツカダイコンを収穫し土壌改良を終えた畝では、新しくタネをまいたミズナやシュンギク、第三弾のハツカダイコンなどがちょうど発芽したばかり。谷岡さんも畑もフル回転です。「今年はできがいいからうれしいけど、まだ11月は冬野菜そのものの味が薄い。霜が降りる12月になって糖度が高くなるとおいしくなる」と採れたての九条ネギをかじりながら谷岡さんが話してくれました。

[1]手前から九条ネギ、ダイコン、ニンジン、ジャガイモと大きく育ちました
[2]10月中旬に植えたレタスの苗もどんどん育っておいしそう!
[3]ニンジンやダイコンの葉の勢いがすごい! 土の下の野菜が気になります!

収穫後、再びタネをまいたハツカダイコンの発芽(写真上左)。ハツカダイコンは11月中旬までタネまきができます。写真上右は生育中のシュンギク

収穫期を迎えた小カブ「あやめ雪」(写真上左)。こんなに大きな自然薯(じねんじょ)が採れたと大満足の谷岡さん! 実は、友人からもらった親芋を6月に植えていたそう(写真下左)。冬の訪れとともに収穫物もいろいろ! 今日の収穫物は、左から自然薯、九条ネギ、レタス、青首ダイコンや紫のダイコン、「くろまるくん」など(写真上右)

お色直しをした冬の野菜たち

土を落とした彩り豊かな野菜を籠に盛ってレストランのエントランスに飾ります! 開店前は、野菜たちにぬれ布巾がかけてあり、シェフの野菜への愛情が伝わってきます。
「基本、素材が十分おいしいのだから、その味を少しおいしくするだけでいい。おいしすぎる必要はない」というのが谷岡さんの信条。ゆでるとか、シンプルな調理法で十分だそう。もちろん、昔ながらの伝統的な調理法も大切にしながら、素材のもっている味を最大限に引き出せるレシピを組み立てるとか。写真の野菜は、左から青首ダイコンや「くろまるくん」、黒や紫のダイコン、津田カブ、ニンジンなど。

野菜の味そのものを食してほしいと、味付けはシンンプルなフレンチマスタードソース。中央の小口切りのアサツキを飾ったのはレモン風味のカニです。縦にスライスした黄色のニンジンや青首ダイコンの黄や緑のグラデーションと、輪切りにした「天安紅心2号」のピンクや緑のコントラストが宝石のように美しい! それぞれの野菜の繊維の緻密さによって秒単位でゆでわけてあるから、薄いスライスでも野菜本来の味がわかります。

黒七味を添えただけの自家製鴨のローストと、ゆでたハツカダイコンや小カブ「あやめ雪」などを組み合わせたメインディッシュ。特に、カブの葉と鴨のロースト、黒七味は絶妙のコンビネーションです。「野菜はソースになる。食べると唾液が出て、野菜を食べることで口の中でソースになり、それでいっそうおいしく感じて食べられる」とシェフの谷岡さん。カブの葉、そのもののおいしさを初めて知りました!

2013年6月、京都の西山の旧家を改装してオープンしたフレンチレストラン「スポンタネ」。和風の落ち着いたたたずまいのレストランにもシェフのこだわりが随所に見受けられ、ライトアップされた和風庭園が望めるお部屋でいただくフレンチ料理は粋です。そして、シェフが丹精込めて育てた無農薬の自家製野菜にシンプルな味付けをした料理は、旬の野菜本来の味が楽しめ、野菜好きにはたまりません。ゆったりと流れるひととき、野菜のうまみを活かしたフレンチ料理は最高です。
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京都府京都市西京区大原野上里北ノ町697-1
電話:075-874-5551
営業時間:ランチ/12:00〜15:00 ディナー/18:00〜21:00
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)

スギ、モミジ、マツ、ツワブキ、ヤブラン、ツツジ、シダなどローメンテナンスな植物で構成された和風庭園。植栽の参考になります!

京都の画家、木村英輝さんが描いたふすま絵。レストランのさらなる飛躍を願ってクジャクやタケノコを描いてもらったとか。クジャクが舞うお部屋でいただくディナーは格別です。

手作り野菜にはまったきっかけは、子どもたちに無農薬のおいしい野菜を食べさせたいとマダムが始めた家庭菜園だったとか。今では「野菜オタク」と自認するシェフの谷岡さん。よき理解者の五十棲さんと一緒に、毎朝早くから丹精込めて季節の野菜作りに励んでいます。
「スポンタネ」は仏語で「やさしい」とか「素直」、「ありのまま」という意味。素材にやさしいシンプルな味付けでありのままの素材を活かす、そんな想いが込められているとか。これからも、どんな野菜料理がいただけるかとっても楽しみです。

次回は、「青木家の春のローメンテナンス・コンテナ」を取り上げる予定です。お楽しみに!

JADMA

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