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 【第34回】ロンドン旅行記3〜シークレットガーデンを散策

【第34回】ロンドン旅行記3〜シークレットガーデンを散策

2016/10/04

金融の街、ロンドンのシティを歩いていると、突如、美しいガーデンが出現。「こんなところに?」と驚きながらもぐっと引き寄せられました。都会の真ん中のシークレットガーデン、見逃すわけにはいきません。

心休まる隠れ家的ガーデン「シークレットガーデン」

突然タイムスリップしたような感覚におそわれる憩いの空間

ビルが立ち並ぶロンドンの金融街を歩いていると、朽ち果てた教会の建物や壁に囲まれた美しいガーデンに遭遇! セントポール大聖堂の近くにあるクライストチャーチ・グレーフライアーズ・ガーデンです。ここは、突然タイムスリップしたような不思議な感覚におそわれる秘密の花園。また、すぐ近くには、見過ごされがちな小さな門を抜けると隠れ家的ガーデン、緑に覆われた静かなポストマンズ・パークがあります。
ロンドンの街中には、実は、気づかないと通り過ぎてしまいそうな秘密の庭がたくさん。今月は、そんな街中にある「見逃したくないシークレットガーデン」をご紹介します。

シティにあるクライストチャーチ・グレーフライアーズ・ガーデン

13世紀に設立された修道院のフランシスコ修道士たちが身にまとっていた灰色の修道衣が教会の名前の由来。14世紀、新たに建てられた教会は当時のロンドンで2番目に大きく、イングランドの王妃を含め、著名人が埋葬された由緒ある教会でした。でも、1666年のロンドン大火、そして1940年第二次世界大戦のドイツの2度にわたる空爆で崩壊。1950年に残された塔と右側の壁の一部を修復し、敷地も整備されたとか。そんな暗い歴史を背負った空間が、今では美しい公共のガーデンに姿を変えて残されています。

2011年、すべての植物を一度抜いて土壌改良するなど、景観も含めてガーデンが全面的に改修されました。その後、伝統的なイングリッシュガーデンの植栽を基本に、最近のガーデニングの流行に沿った草木中心の植栽がされたそう

手入れが行き届いたツゲの低い生け垣で囲まれたボーダー花壇。奥行きが7m以上もあるから、さまざまな多年草や宿根草が植えられ、ボリューム満点です。それぞれの植物の草丈や広がり、配置、そして配色、アクセントカラーの入れ方など、植栽の参考にもばっちり。日本でもおなじみのローメンテナンスな植物であるアガパンサスやベンケイソウ、ガウラ、フウロソウなどがあるから、ここで初めて出合った植物たちもきっと手間いらずのはず、と想像は膨らみます。

長さ21mはあるロングボーダー花壇をゆっくり歩くと、見る角度によって草花が次々と変わり、花壇の絵も変化。点在するアクセントカラーの黒いヘメロカリスや、赤軸のベンケイソウは、パステル調の花壇の引き締め役です

[A]ガーデンで多用されている花色のひとつ、薄紫のフウロソウ。同じ花色の花穂を立ち上げるキャットミントと違って、丸い5弁の花は愛らしさを添えてくれます
[B]ローメンテナンスな植物の代表格、白いガウラ。風にやさしく揺れるから、ガーデンで風を感じさせてくれます
[C]黒いエキゾチックな夏の花、ヘメロカリス。淡い色調の花壇を締める名脇役です。一日花だけど、とっても手間いらず。植えっぱなしで大丈夫です
[D]ガーデンファニチャーに絡ませたクレマチス。濃い紫の花色は、パステルカラーのガーデンを引き締めてくれます
[E]かわいい印象とは違って、実はとっても丈夫で手間いらずのフウロソウ。ボーダー花壇の所々に点在し、愛らしい印象を盛り上げます
[F]左右の花壇に1株ずつ植えられた薄黄色の木立性のバラ。小花が多く咲く花壇のアクセントにピッタリ
[G]濃いブルーの大輪のアガパンサス。水やりは自然降雨で大丈夫な手間いらずの代表格です。大型のアガパンサスだから、華やかな花は花壇に変化を与えます
[H] ヤマブキショウマの一種、アルンクス アエツシフォリウス。小花が密集し穂状に咲く、和洋どちらの庭にも、山野草の庭にもピッタリな多年草
[I]イングリッシュガーデンでよく見かける茎が赤い大型のセダム、ベンケイソウ。パステルカラーの花壇の色合いを締めるのに効果的

木製の構造物が左右の花壇5カ所ずつ、計10カ所配置されています。これは、もともとあった教会の塔に似せて作ったレプリカとか。ステンレスのワイヤを張り、薄ピンクのクライミングローズや濃い紫のクレマチスなどをさりげなく誘引。どうやら都会にすむ鳥たちのすみかにもなっているらしい。

左右対称のボーダー花壇だから、植物も右側の花壇とほとんど同じ。残っている壁の向こうにシティのビルが垣間見えるのも、いかにも都会の真ん中のオアシスという感じです。左側の花壇は、残った壁が午後の日ざしを遮るから、花壇の位置によっては少し半日陰気味。それぞれの植物の茂り方や花つきが右側と違います。でも、配色が統一されているから、よく観察しないと気づきません。右側の花壇と同じように、淡い色調の植栽に引き締め役の赤い花が点在。

[A]ひときわ目を引く華やかな薄ピンクの木立性のバラ。アクセントにピッタリです
[B]薄紫の愛らしいペンステモン。冷涼な気候を好むから、高温多湿の夏の京都の庭では、夏越しは無理かもしれません
[C]多数の濃いピンクの花穂が目を引くペルシカリアは、耐寒性も耐暑性も強いタデ科の宿根草。ローメンテナンスガーデンにおすすめの植物のひとつです
[D]薄ピンクのクライミングローズを絡ませたガーデンファニチャーは、庭のフォーカルポイント
[E]日本でもおなじみのアジサイ科のダルマウツギ。剪定は花後の夏に行います。半日陰でも花を咲かせ、高さは約1m。樹高を低く抑えたいときや狭い庭で重宝します
[F]人気のハーブ、冷涼な気候を好むアルケミラ モリス。淡いライムグリーンのボリュームのある花は、花壇にやさしさと華やかさを添えてくれます

セントポール大聖堂に近い地下鉄の駅、セントポールを出た所で見つけた金融街の植え込み。シロタエギクやヘリクリサム ペティオラレなど、銀緑色やライムグリーンの明るい葉もので花壇を縁取り、背丈の高い植物や差し色(アクセントカラー)で変化をつけた植栽は、日本の植え込みとひと味違います。どの植え込みも個性的で、思わず植え込みを探してしばらく歩いてしまいました。

[A]手前から銀葉のシロタエギク、ジニア、紫花のヘリオトロープなど。高さを演出するのは、オレンジ色のダリアやアルストロメリア、銅葉のカンナたち
[B]花壇を縁取るのは淡い緑のヘリクリサム ペティオラレ。コーラルピンクのゼラニウムの間にちりばめられたオレンジ色のマリーゴールドと銅葉のカンナがすてきなアクセント
[C]シロタエギクに縁取られた植え込みの中は、黄色やオレンジ色のマリーゴールド。高さを演出するのはオレンジ色の花の銅葉のカンナなど

静けさに包まれた秘密の隠れ家、ポストマンズ・パーク

1880年にオープンした公共のガーデン、ポストマンズ・パーク。以前この近くにあった郵便局の職員がよく休憩に来ていたのが名前の由来だとか。また、園内には、映画「クローサー」にも出てきたたくさんの記念のプレートが設置されています。19世紀のロンドンで自らの命を犠牲にして人命を救った勇気ある人々の名前とその行動をたたえた陶板です。そんな歴史があるせいなのか、見過ごされがちな門を抜けると、都会の喧噪(けんそう)がうそのような静けさに包まれています。

大木とビルに囲まれた日陰の花壇。気づかずに通り過ぎそうな庭ですが、2007~2009年、ロンドンの公共のガーデンの小さな庭賞を受賞した庭だとか。赤葉のモミジや斑入り葉のガクアジサイ、ツルマサキなどが、落ち着いた緑のガーデンに変化を添えています

近くで見かけた街角の植え込みと同じテクニックを使った花壇。縁取りはシルバーリーフのシロタエギク、中はピンクのコスモスで埋め尽くされています。高さに変化をつけるのはピンクのクレオメや銀葉のグラスなど。両側の花壇も統一されているから見事です

小さな噴水のある池。ここはほとんど日が当たらないので、日陰の植栽が参考になるエリアです。寂しい雰囲気ですが、よく見ると日本でもおなじみのヤブランやイカリソウなど日陰がお好みの植物たちがいっぱい

[A]手押し車をコンテナとして使った面白い演出。中にはグラスなどが植えられナチュラルな雰囲気を醸し出していました
[B]半日陰で薄紫の花を咲かせる、冷涼な気候がお好みの斑入りのヘーベ「フランシスカーナ バリエガータ」。ロンドンの日陰の花壇でよく見かけました
[C]日陰の花壇の植栽。手前からツルマサキ、斑入りのホスタ、斑入りのガクアジサイなどを植えて高低差を演出
[D]手前が黄花の咲くポテンティラ「ゴールドフィンガー」、奥の植物は上品な印象の斑入りのガクアジサイ
[E]シェードの花壇を明るく演出する、下草の斑入り葉のイワミツバ。最近、北海道で外来種に指定され駆除しないといけないとか。その奥の植物は順にヤブラン、ツバキ。

たくさんの人々が集うセントポール大聖堂のコートヤード

クライストチャーチ・グレーフライアーズ・ガーデンの南にセントポール大聖堂があります。このバラの植え込みは、そのセントポール大聖堂のコートヤード。公共のスペースの植え込みです。背丈の低いピンクのバラが無数に植えられ、シルバーリーフのユーカリの木が点在し、変化がつけてあります。

上記の植え込みの奥にある半日陰の花壇。背丈の低い多年草のガウラが一面に植えられ、銀葉のアステリア「シルバーシャドー」がアクセント。シンプルで手間いらずの植栽です

歴史のある教会やガーデンを保存し、ずっと維持し続けるイギリスのロンドン。今回ご紹介した2つのシークレットガーデンは、シティの金融街のオフィスワーカーたちの心休まるオアシスです。通勤する道沿いにあったり、お昼休みに寄れるほど近かったり。帰りにもちょっと寄りたくなってしまいます。こんな環境、うらやましい限りです。
実は、旅行前に、「ロンドン、シークレットガーデン」とインターネット検索してこの2つのガーデンを知りました。最近では、旅行本だけでなく、こんな調べ方もできるからとっても便利。他にもロンドンにはシークレットガーデンがあるけれど、いつでも訪ねることができて手入れがよいのはこの2つのガーデンです。郊外の有名なガーデンもすてきだけど、ちょっと時間があったらぜひ寄ってみてください!

次回は、「ロンドン旅行記4 〜ロンドンのガーデンショップとセント・ジェームズ・パーク」を取り上げる予定です。お楽しみに!

JADMA

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