制作・文・写真
青木純子
あおき・じゅんこ
園芸家・フォトグラファー。京都市在住。庭で育てた草花を使い、生花のアレンジや押し花、ドライフラワーを作るアフターガーデニングを提案。2015年から『ガーデンフラワーカレンダー』(主婦の友社)を発行。ホームページはhttp://www.j-aoki.gr.jp/
【第34回】ロンドン旅行記3〜シークレットガーデンを散策
2016/10/04
金融の街、ロンドンのシティを歩いていると、突如、美しいガーデンが出現。「こんなところに?」と驚きながらもぐっと引き寄せられました。都会の真ん中のシークレットガーデン、見逃すわけにはいきません。
心休まる隠れ家的ガーデン「シークレットガーデン」
突然タイムスリップしたような感覚におそわれる憩いの空間
ビルが立ち並ぶロンドンの金融街を歩いていると、朽ち果てた教会の建物や壁に囲まれた美しいガーデンに遭遇! セントポール大聖堂の近くにあるクライストチャーチ・グレーフライアーズ・ガーデンです。ここは、突然タイムスリップしたような不思議な感覚におそわれる秘密の花園。また、すぐ近くには、見過ごされがちな小さな門を抜けると隠れ家的ガーデン、緑に覆われた静かなポストマンズ・パークがあります。
ロンドンの街中には、実は、気づかないと通り過ぎてしまいそうな秘密の庭がたくさん。今月は、そんな街中にある「見逃したくないシークレットガーデン」をご紹介します。
シティにあるクライストチャーチ・グレーフライアーズ・ガーデン
13世紀に設立された修道院のフランシスコ修道士たちが身にまとっていた灰色の修道衣が教会の名前の由来。14世紀、新たに建てられた教会は当時のロンドンで2番目に大きく、イングランドの王妃を含め、著名人が埋葬された由緒ある教会でした。でも、1666年のロンドン大火、そして1940年第二次世界大戦のドイツの2度にわたる空爆で崩壊。1950年に残された塔と右側の壁の一部を修復し、敷地も整備されたとか。そんな暗い歴史を背負った空間が、今では美しい公共のガーデンに姿を変えて残されています。
手入れが行き届いたツゲの低い生け垣で囲まれたボーダー花壇。奥行きが7m以上もあるから、さまざまな多年草や宿根草が植えられ、ボリューム満点です。それぞれの植物の草丈や広がり、配置、そして配色、アクセントカラーの入れ方など、植栽の参考にもばっちり。日本でもおなじみのローメンテナンスな植物であるアガパンサスやベンケイソウ、ガウラ、フウロソウなどがあるから、ここで初めて出合った植物たちもきっと手間いらずのはず、と想像は膨らみます。
木製の構造物が左右の花壇5カ所ずつ、計10カ所配置されています。これは、もともとあった教会の塔に似せて作ったレプリカとか。ステンレスのワイヤを張り、薄ピンクのクライミングローズや濃い紫のクレマチスなどをさりげなく誘引。どうやら都会にすむ鳥たちのすみかにもなっているらしい。
左右対称のボーダー花壇だから、植物も右側の花壇とほとんど同じ。残っている壁の向こうにシティのビルが垣間見えるのも、いかにも都会の真ん中のオアシスという感じです。左側の花壇は、残った壁が午後の日ざしを遮るから、花壇の位置によっては少し半日陰気味。それぞれの植物の茂り方や花つきが右側と違います。でも、配色が統一されているから、よく観察しないと気づきません。右側の花壇と同じように、淡い色調の植栽に引き締め役の赤い花が点在。
セントポール大聖堂に近い地下鉄の駅、セントポールを出た所で見つけた金融街の植え込み。シロタエギクやヘリクリサム ペティオラレなど、銀緑色やライムグリーンの明るい葉もので花壇を縁取り、背丈の高い植物や差し色(アクセントカラー)で変化をつけた植栽は、日本の植え込みとひと味違います。どの植え込みも個性的で、思わず植え込みを探してしばらく歩いてしまいました。
静けさに包まれた秘密の隠れ家、ポストマンズ・パーク
1880年にオープンした公共のガーデン、ポストマンズ・パーク。以前この近くにあった郵便局の職員がよく休憩に来ていたのが名前の由来だとか。また、園内には、映画「クローサー」にも出てきたたくさんの記念のプレートが設置されています。19世紀のロンドンで自らの命を犠牲にして人命を救った勇気ある人々の名前とその行動をたたえた陶板です。そんな歴史があるせいなのか、見過ごされがちな門を抜けると、都会の喧噪(けんそう)がうそのような静けさに包まれています。
たくさんの人々が集うセントポール大聖堂のコートヤード
クライストチャーチ・グレーフライアーズ・ガーデンの南にセントポール大聖堂があります。このバラの植え込みは、そのセントポール大聖堂のコートヤード。公共のスペースの植え込みです。背丈の低いピンクのバラが無数に植えられ、シルバーリーフのユーカリの木が点在し、変化がつけてあります。
歴史のある教会やガーデンを保存し、ずっと維持し続けるイギリスのロンドン。今回ご紹介した2つのシークレットガーデンは、シティの金融街のオフィスワーカーたちの心休まるオアシスです。通勤する道沿いにあったり、お昼休みに寄れるほど近かったり。帰りにもちょっと寄りたくなってしまいます。こんな環境、うらやましい限りです。
実は、旅行前に、「ロンドン、シークレットガーデン」とインターネット検索してこの2つのガーデンを知りました。最近では、旅行本だけでなく、こんな調べ方もできるからとっても便利。他にもロンドンにはシークレットガーデンがあるけれど、いつでも訪ねることができて手入れがよいのはこの2つのガーデンです。郊外の有名なガーデンもすてきだけど、ちょっと時間があったらぜひ寄ってみてください!
次回は、「ロンドン旅行記4 〜ロンドンのガーデンショップとセント・ジェームズ・パーク」を取り上げる予定です。お楽しみに!