写真・文
奥田 實
おくだ・みのる
北海道東川町在住。2010年、樹木の生命美をとらえた写真集『生命樹』を出版する。また、自宅の菜園で育てる野菜を『生命樹』と同じ視点で撮影し、作品を構成した『野菜美』を2014年に出版。
【第7回】トウモロコシ
2016/07/26
山繭(やままゆ)の桛(かせ)を思わせる薄緑色のめしべ
七輪に炭をくべ、団扇(うちわ)であおいで火をおこす。パチパチと音をたて始めるトウモロコシ。立ちのぼる匂いを嗅ぎながら、焦げつかないように軸を動かし続ける。こんがりと焼きあがるまで、なんとも待ち遠しいこと。この手間は初物を楽しむためには欠かせない段取りであり、採れたての香ばしさを味わいながらも、記憶の風景を取り戻せる楽しい時間である。
まず、縁側のそばで焼きモロコシをほおばるおかっぱ頭の姉たちが現れ、路地裏からヒシバッタを追い求める私の小さな手と後ろ姿が見えてくる。垣根に立てかけた鳥もち竿と、そこにくっついてバタバタ暴れるシオカラトンボとアブラゼミの映像も実にリアルである。
真夏の食材イメージが強いトウモロコシだが、我が菜園での収穫は9月上旬になってしまう。田園の稲穂は黄金色になってこうべを垂れ、アキアカネが空高く舞い始める。大雪山の高山帯に生えるウラシマツツジなどの高山植物も赤く色づきだす頃で、もう、秋近しである。
コラージュの構成で主役になったトウモロコシのヒゲ。これは、雌花の子房から伸びためしべで、子房の数だけ本数があり、別名は絹糸(けんし)と呼ばれている。撮影は若い実の先端からこのヒゲが見え始めた頃を見計らうが、もぎ取るタイミングが難しく、写真映りの良否を左右する。
まず、トウモロコシの皮の外周に沿って刃物で切れ目を入れ、めしべを欠落させないように皮を1枚ずつ丁寧に取り除いていく。切り口はすぐ赤茶色に変色するので、これを防ぐ手立てを施しながら作業を進めると、産衣(うぶぎぬ)のような薄い皮の下から、山繭の桛を思わせる薄緑色のめしべが現れた。生命の形とその色、ただただ、見とれるのみ。
次回は「オクラ」を取り上げる予定です。お楽しみに。