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【第9回】ナス

【第9回】ナス

2016/09/27

写真集『野菜美』(新樹社刊)より

私の「茄子紺」は、赤紫をおびた辺りの濃い紺色

いろいろなナスが店頭に並ぶようになった。大きいものや小さいもの、丸いものもあれば細長いものもある。色も白や薄紫、緑色などなど、カラフルな色彩には目を引きつけられる。
食は目からも楽しむことができ、食卓に並んだ彩り豊かなナスを想像するだけでアルコールがすすみそうである。この原稿を書きながらも、初ものの大きなナスを直火で焼き、ショウガじょうゆで一気にほおばった時の、口の中でとろける焼きナスの甘みが頭に浮かんで離れなくなってしまった。

昔ながらの日本のナスしか知らないものにとって、色彩豊かなヨーロッパのナスはとても気になる存在である。そんな折、著書『野菜美』の出版にあたり、華やかな色彩の品種を取り入れた画面構成を考えた。しかし、その土地風土に合わない品種を私はうまく育てられず、撮影はかなわなかった。いつも育てているナスで画面を構成することに落ち着いたが、その代わりにナスの紺色を再認識することになった。

ヨーロッパのナスに対して、和ナスのほとんどは色が紺色である。この紺色が「茄子紺」と呼ばれるもので、日本の伝統色になっている。ごく暗い紫、ナスの実のような紫の濃い紺色、などと定義はゆるやかだ。だが、この色はとても奥深い。実の成長段階による色の変化が微妙で、どの部分を「茄子紺」というのか、毎日、ナスの実の成長と色をにらめっこ。撮影はヘタ近くの白っぽい部分が赤紫をおび、濃い紺色へと移り変わる辺りの色味を最重点にした。
生きている植物の写真は忠実な色再現が基本である。成長する過程の微妙な色合いは、生命そのものだからである。朝や夕、晴天や雨、日なたや日陰などの光線状態で、被写体の写り方は激変する。適切な色温度の管理が重要になる。

次回は「キクイモ」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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