写真・文
奥田 實
おくだ・みのる
北海道東川町在住。2010年、樹木の生命美をとらえた写真集『生命樹』を出版する。また、自宅の菜園で育てる野菜を『生命樹』と同じ視点で撮影し、作品を構成した『野菜美』を2014年に出版。
【第11回】ダイコン
2016/11/22
畳1枚分ほどの土地を耕して手始めに植えた野菜
大雪山の自然風景を撮影するためにこの地へ移り住んだとき、畳1枚分ほどの土地を耕して手始めに植えた野菜がダイコンだった。その後、野菜の種類はどんどん増え続け、リンゴやブドウ、ナシなどの果樹を手掛けるまでにのめり込んでいった。2014年、我が菜園の野菜たちを題材にした『野菜美』を出版した。連載中の『北海道、我が菜園で出会った野菜の命の物語』の作品集である。ただ食べるだけだった野菜を被写体にしたのだ。今は、庭先に自生している野草たちに魅せられている。
わが家にとってもなくてはならない食材の一つがダイコンだ。冬場、まきストーブでコトコト煮つけたブリ大根はとろけるほど軟らかく、寒い夜の一品になる。竹の鬼おろし器ですりおろしたダイコンは鍋物のうま味を一段と引き上げてくれる。保存食として欠かせないたくあん漬けは、秋田県名物の「いぶりがっこ」をまねて、燻煙(くんえん)を済ませてからぬかで漬けている。また、スライスして扇風機で乾かせば即席の切り干し大根に変身し、スルメイカや昆布、しょうゆと合わせることで簡単な酒のさかなが出来上がる。菜園に残したダイコンは冬場の野菜不足を補うため、収穫後、穴を掘って並べ、凍らないようにもみ殻と土をかぶせて越冬保存。それでも余ったダイコンは、全てすりおろして冷凍にする。そのおかげで、いつでも手軽に大根おろしをいただいている。
ダイコンの撮影には、ほとほと手を焼いた。白いひげ根のディテールをうまく表現できなかったのだ。また、虫食いなど、葉を傷つけずに成長させる難しさにも音を上げた。緑色のダイコンも植えたが思うように育たず、撮影を諦めかけた。しかし、畑でほったらかしにされていた彼らは、一度は伸びた茎を機械で刈り払いされたにもかかわらず、雑草にまぎれ曲がりながら力強く生き延びていた。
次回は「野沢菜」を取り上げる予定です。お楽しみに。