写真・文
奥田 實
おくだ・みのる
北海道東川町在住。2010年、樹木の生命美をとらえた写真集『生命樹』を出版する。また、自宅の菜園で育てる野菜を『生命樹』と同じ視点で撮影し、作品を構成した『野菜美』を2014年に出版。
【第13回】春の胎動を知らせてくれるエゾネギ
2017/01/31
残雪を背に、海原を背に、群れて咲く赤紫の花々に憧れた
菜園が雪解けを迎えるころ、いち早く春の胎動を知らせてくれるエゾネギ。薄くなった雪を割るように2〜3cmほどの黄色い新芽をすでに伸ばし始めている。
エゾネギは北海道の日本海側の草地や山地に広く自生し、本州に分布するアサツキと同じ仲間である。20代のころ、残雪を背にしたシロウマアサツキの花咲く風景に憧れて白馬岳へ登った。また、青い海原に面した岩礁地に群れて咲く赤紫の花々の撮影に何度も礼文島への海を渡った。菜園のエゾネギは二十数年前に1株を庭の片隅に植えたものである。しかし、この1株が庭ばかりか菜園全てを席巻しそうな勢いで増えてしまった。
エゾネギの新芽は春の日差しを浴び、2〜3日で薄緑色に変わる。この適度に伸びた若葉はぬたあえにして旬を味わい、薬味にも多用する。掘り起こした鱗茎部分は自家製のみそを付けての生食である。5〜6個が限度だが、適度な辛さは晩酌にもってこい。また、甘酢漬けにして保存食にもしている。とっておきの利用法は、若葉だけを使ったお好み焼きである。エゾネギの焼けた香ばしさと、とろけるような甘みとが食欲をそそる。
菜園いっぱいに繁殖したエゾネギだが、画面構成に適した素材となると意外と少ないものである。イメージに合わせて混み合った株を整理し、被写体を見下ろすようなアングルでは、画面に写り込む不要なもの全て取り除く。さらに、必要な素材部分を背景からきれいに切り離すために、白い紙とぬれティッシュを使って土壌部分を隙間なく覆う。これで準備完了、あとはシャッターを切るだけである。
次回は「ワサビ」を取り上げる予定です。お楽しみに。