写真・文
奥田 實
おくだ・みのる
北海道東川町在住。2010年、樹木の生命美をとらえた写真集『生命樹』を出版する。また、自宅の菜園で育てる野菜を『生命樹』と同じ視点で撮影し、作品を構成した『野菜美』を2014年に出版。
【第20回】朝露に覆われてガラス細工に見えるブロッコリー
2017/08/22
食べてしまう花蕾はどのような花を咲かせるのか
モンシロチョウ舞う山里は、一見のどかな田園風景を思い起こさせるが、ブロッコリー栽培はこの幼虫による食害との攻防戦といっても過言ではない。植栽当初は畝を防虫網で囲って若苗を保護するが、どこかの隙間から成虫が入り込み、葉の裏に1mmほどの小さな卵を1粒ずつ産み付けてしまう。攻防といっても、葉を一枚一枚裏返し、卵を筆で払い落とすだけである。だが、戦いをあきらめたとき、葉に開いた小さな穴はやがて列島地図のように大きく変貌し、無残な葉脈だけと化す。
寝起き一番は、朝の空気を全身で体感することに努めている。敷地内の草木をくまなく見回り、菜園の野菜を摘み取るのも日課である。ひやっとする早朝の菜園は露にぬれた銀色の絶景に出合えるときでもあり、食べどきを迎えたブロッコリーも朝露の水玉に覆われガラス細工のように見えることがある。職業意識に目覚め、手で触れることさえためらわれる。朝のパン食にはマヨネーズかドレッシング。硬い茎の部分は薄くスライスしてスパゲッティの具に。残ったブロッコリーは軽く湯がき、湯で少し薄めたからしじょうゆであえただけの素朴な味で晩酌を楽しむ。
今、進行中の野草撮影の魅力は、未知なるものとの出合いに尽きる。花やタネ、根などの個体差がとても興味深く、被写体まかせのコラージュの作画がとても面白いのである。著書『野菜美』の原動力も、いまだ見ぬ世界への探究心であった。今回の花蕾(からい)を食べるブロッコリーは、どのような花を咲かせるのかが一番に見たかったことである。開花期と降雪期が重なったため、簡易のビニールハウスを組み、ろうそくをたいて寒気と雪を防ぐことで撮影ができた。見事な花の撮影はかなったが、構成時、細かな花を切り抜く作業にめいってしまった。
次回は「さかのぼればアズキの栽培は縄文時代から!?」を取り上げる予定です。お楽しみに。