写真・文
奥田 實
おくだ・みのる
北海道東川町在住。2010年、樹木の生命美をとらえた写真集『生命樹』を出版する。また、自宅の菜園で育てる野菜を『生命樹』と同じ視点で撮影し、作品を構成した『野菜美』を2014年に出版。
【第23回】ハナマメは1日6cmのスピードで空を駆け上がる
2017/11/28
被写体探しは好奇心が優先する
真夏の日差しが続く7月末、ハナマメは群青色の空に浮かぶ真っ白な雲を目指して空を駆け上がっていた。
ハナマメには朱赤色の花を咲かせ、紫色の中に黒色の斑の入ったマメがなるムラサキハナマメと、白い花、白いマメのシロハナマメがある。わが菜園では代を絶やさないためにも、30年近く栽培を続けてきた。タネまきは遅霜の心配が薄れる6月に入ってからである。株が育ち始めたころを見計らい、手竹(てだけ)を畝に差し、伸びたつるを巻き付かせて成長させる。つるは絡まるものを探しながら、上へ上へと伸びていく。著書『野菜美』の撮影中、真っすぐな添え木があれば、ハナマメはどこまで伸び続けるのか、新たな手竹を8mの高さまで継ぎ足して成長を確かめた。結果、つるは1日6cmのスピードで添え木の先端近くまで駆け上がったのである。株の全体長を実測したところ、7m60cmほどに成長していた。ハナマメのつるは真っ白な雲へは届かなかったが、イギリスの昔話である『ジャックと豆の木』をちょっぴり夢見ることをかなえさせてもらった。
保存食として欠かせないハナマメは甘い煮豆を筆頭に、シチューやスープの具、サラダなど、冬は毎日といっていいほど食卓に出てくる。甘い煮豆は妻専用の好物だと思っていたが、近ごろは、雪かきなどの労働の後はこの煮豆が酒のつまみになり、箸が進むのである。
花が咲きだすと、大きなマルハナバチが飛来する。彼らは吸蜜するために、何度も花の中へ潜り込もうと試みているが、簡単には吸蜜させてくれないようである。吸蜜しづらい仕組みは、受粉させてもらうためのハナマメの戦略なのだろう。分解して花の内部をのぞき見れば、蓄音機のラッパのような器官が奥へ伸び、この中に雌しべが見え隠れしていた。被写体探しは好奇心が優先する。
次回は「雪の下の黒土の中から掘り起こす越冬ニンジン」を取り上げる予定です。お楽しみに。