小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
穴ぼこの住人 食虫植物たち
2014/10/10
豊葦原瑞穂の国(とよあしはらのみずほのくに)といわれた古代の日本には、あっちこっちに湿地があったのでしょう。しかし、そこは平らな土地ゆえ、埋め立てれば開発は容易でした。
現在、首都圏では最後のサンクチュアリと思われる湿地が千葉県にあり、国指定の天然記念物となっています。ボランティアの皆さんが、湿地に侵入してくるススキなどの強壮な植物を抜き取り手入れをしていますが、掘り取ったところに裸地が残ります。
そこには、クレーターとも思われるその穴を拠り所に生きる植物の一群があります。それが、モウセンゴケなどのドロセラ属、ミミカキグサなどのウトクラリア属の食虫植物群です。 これらは植物体が小さいので、葉の大きな宿根草などが生えてくると生存できません。人が開けた穴が好都合なことに裸地になり、埋蔵種子がいち早く発芽してその場所に生息環境を得ているのです。
春から夏にはイシモチソウやモウセンゴケ、コモウセンゴケ。夏から秋にはナガバイシモチソウやミミカキグサ、ホザキノミミカキグサたちが花を咲かせます。人が作った穴という小さな世界が、足を止めて覗き込まないとわからないような小さな植物たちを支えているようでした。
湿地にできた“クレーター”。ここが食虫植物たちの絶好の生息場所になります。
イシモチソウ(Drosera peltata)。立ち上がり三次元的に生育し、粘液滴で虫を捕らえます。粘着力が強く、小石を持ち上げるくらいということで“石持ち草”。宿根草で夏には休眠します。関東地方を北限として東アジア、熱帯アジアなどに分布する、どちらかというと南方系の食虫植物です。
ナガバノイチモチソウ(Drosera indica)は、種小名のindicaが示すようにインド洋に面する熱帯域に分布中心を持つ食虫植物で、東アジアの日本は分布の北限でしょう。本来は宿根草ですが、寒さで枯れてしまうため一年草として分布しているようです。夏以降にイシモチソウが姿を消し休眠すると、ナガバノイシモチソウの季節になります。
モウセンゴケ(Drosera rotundifolia)は代表的な食虫植物の一つ。北半球の寒冷な気候に自生しますが、関東では、暖地性のイシモチソウなどと同じ場所に生えているのを見ることができます。
コモウセンゴケ(Drosera spathulata)はモウセンゴケを30%程度小さくした体つきで、冬も葉を展開します。日本の東北南部から南西諸島を経て東アジア南部、アフリカなど世界的に分布し、湿原といってもわりあいと乾燥気味の環境を好みます。
ミミカキグサ(Utricularia bifida)の葉は5mm程度と小さく、花が咲いていないと見つけるのに苦労します。
ホザキミミカキグサ(Utricularia caerulea)の花は1cm程度。種小名のcaeruleaはその花色、“青色”を表します。隣に見えるのはナガバノイシモチソウです。
ミミカキグサ属の葉です。よく見るとアリが写っているので、葉の大きさがわかっていただけると思います。