小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
青い鳥は近くにいる ツユクサ
2014/10/17
ヒマラヤに咲く青いケシを求めて、中国雲南省デチェン蔵族(チベット族)自治州シャングリラに出かけました。郊外のナパ(納岶)海は標高3266mの湿地で、雨季には水が溜まり、乾季には草原となる湖。そこから、切り立った法面が標高4000m程度まで続いていて、ガレ場となっており、高山植物の宝庫でもありました。
そこにはメノコプシス ラセモサ(Meconopsis racemosa)が自生していて、初めて見る青いケシに感動し、地の果てといわれる場所まで来た疲れも取れた気がしたものです。
先日、休耕田にツユクサ(Commelina communis)が咲き乱れていているのを見つけた時のこと。青いモヤが漂うように視界に飛び込んできました。「青は遠目がきく」とあるフラワーデザイナーが言っていましたが、青色はエネルギーが高く、実際に遠くまで届く色です。
よく見るとツユクサの青は、あのメノコプシス ラセモサより青いのでは? あんなに遠くまで行かなくても、身近に美しい花はいくらでも咲いていたのです。ツユクサは花弁が実は3枚あり、雄しべが6本なのですが、そのうち4本が飾り雄しべで、ギリシャ数字の"π"形のような奇妙な造形をしています。また、色が青の補色にあたる黄色なので、強烈なコントラストを呈しています。
ツユクサは英語ではAsiatic day flowerといい、東アジア原生のはかない一日花であることをよく表しています。変種にオオボウシバナ(Commelina communis var. hortensis)がありますが、これはツユクサの中から大柄の株を、人が見つけ出して選抜育種してきたものです。
シャングリラから北西へ10kmほど行ったところに、納岶海はあります。チベット族の感覚では、この水溜りが海という表現になるようです。近くに寄ると、見渡す限りプリムラ、シオガマ、エビスグサなどが咲き乱れ、五色の草原になっています。
標高が高いので樹木は育ちません。石灰岩がごろごろとしたガレ場に、潅木と高山植物が自生しています。
メノコプシス ラセモサは、草丈は1m超え、花色は株によって違います。咲き始めは青色で終わりになると紫色に変わっていきます。
ツユクサの種小名communisは、“どこにでも普通にある”という意味です。
ツユクサの青色は本当に素晴らしい!どこにでもあると、その美しさに気がつかないのは人の性でしょうか?
ギリシャ数字の"π"形のような飾り雄しべがちょっとおかしい!?
オオボウシバナはツユクサの変種で大きさはざっと倍の大きさで花にフリンジがかかります。観賞用や花びらからコメリンと言う青色色素をとり着物の染付けの際、下絵を描く染料に利用されています。