小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
スレンダーな美女 シュウカイドウ
2014/10/24
正岡子規はその姿を美女に例えましたが、すっと立ち上がった花姿は、まさにスレンダーなご婦人のように艶やかに見えます。その正体は、シュウカイドウ科ベゴニア属のシュウカイドウ(Begonia grandis)。日本で唯一、屋外で栽培できるベゴニアで、耐寒性があって自殖可能、半野性状態で育てることができます。
雲南省西南部のミャンマーとの国境地帯、亜熱帯地域になるラーフン族自治地域をドライブしていた時のことです。長旅の疲れを癒すためにドライバーが車を止めました。私は時間がもったいなくて林に入り、谷を降り、どのような植物があるか調べることにしました。半日陰の薄暗い場所で湿気があれば、熱帯・亜熱帯では、普通ベゴニアの類を見ることが多いものです。
シュウカイドウはそんな期待を裏切らず、小川の淵に生えていました。この植物は東アジアの長江以南を原生としますが、寒い華北にも原生すると聞くと、ちょっと奇異に感じられます。おそらく、耐寒性があるので温暖な気候時に自生していた生き残りか、持ち込まれたものに違いないでしょう。
この植物は"ベゴニアの法則"に則って、葉の向きにベクトルがあり、葉の先端が一方向に向いています。花は雌雄異花で、雌しべには子房がつきます。雌しべが豚の尻尾のようにくるくると回っているのも定石どおり。ベゴニア類は湿度の高い場所に生えるので、花粉は粉質ではなく粘質となるのですが、どうやらこの妙な雌しべは、虫についた粘質花粉をこそげ取る役割を果たしているようなのです。
「美女立てり 秋海棠の 如きかな」―― 子規の詠んだ句に納得、一つひとつの花の顔もやっぱり美人?
亜熱帯の林の中、水がちょろちょろと浸み出す場所に、シュウカイドウの自生株はありました。ほかのベゴニア属同様、葉の向きにベクトルがあるのがわかりますか?
シュウカイドウの雌しべは、豚の尻尾のようにねじれています。面白い形ですが、自然の造形には必ず理由があります。
雄花は一重ですね。八重があれば面白いのに!雄しべの花粉が見えます。