小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
森の妖精 雑木林に生える野生マメ
2014/11/07
秋の薄暗い林縁を好んで自生する野性のマメが、私たちの身の回りにいくつかあります。都会のヤブや郊外の林縁にも結構見つかるのですが、忙しい毎日を送る私たちはその存在に気がつかないだけなのです。ちょっと並べてみましょう。
トキリマメ(マメ科タンキリマメ属 Rhynchosis acuminatfolia)
ツルを長く伸ばして近くの植物に絡みます。葉は幅広の三出複葉で葉先が細く尖ります。豆果にはタネが2つつき、よく膨らんで緑色から鮮やかな赤色へと変化します。大きな黒いタネが莢(さや)の内側から外れずにぶら下がるので、その配置と色映えが相まって絶妙なコントラストを見せます。その姿は、まるで森の妖精とも思えます。
ノササゲ(マメ科デュマシア属 Dumasia truncata)
別名キツネササゲともいうつる性の多年草で、薄暗い林縁を好んで自生し、ノササゲの“野”の名とは違い、明るい野で見かけたことはありません。葉は三出複葉ですが葉の幅が狭く、トキリマメよりスリムな印象を受けます。花は薄い黄色で、葉脇からマメ科独特の蝶形花を秋に咲かせます。やがてドキッとするほど鮮やかな紫色をした豆果をつけます。
ヤブマメ(マメ科ヤブマメ属 Amphicarpaea edgeworthii var. Japonica)
前の2種とは違い、ヤブに普通に見られる野生マメで、地上に絹さやみたいな豆果をつけるほか、地下部にも食用可能な大きなマメをつけます。
私たちの食生活を支えるマメたちは、様々な野生マメを人類の営々をした生活の中で作物にしてきた文化遺産です。これらの遺産を支えるためにも、貴重な野生マメは遺伝資源として、いつまでも未来に伝えてゆきたいものです。
しかし、里山の林縁は人の手によって刈り払いや草刈りが頻繁に行われるため、これらのマメの生息域は絶えず脅かされ、トキリマメなどはいくつかの都道府県で絶滅危惧種に指定されるほど数を減らしてしまいました。“マメ”な人の手による草刈りが、貴重な野生“マメ”の持続可能な生存を脅かすことになるとは、なんとも皮肉なものです。
薄暗い森の林縁に真っ赤な頭巾をかぶり、大きな黒い目をした妖精を発見!?
赤い莢(さや)と黒いタネのコントラストが見事です。トキリマメは漢字では「吐切豆」と書きます。名前の由来は定かではありませんが、漢方に由来すると考えるのが普通でしょう。近縁種に「痰切豆」という種があります。
トキリマメの花です。花の長さは1cm程度と小さく、濃い黄色でずんぐりした印象です。
ノササゲの花です。トキリマメより薄い黄色で、スリムな蝶形花です。花や葉でほかの野生マメと区別ができれば、あなたも立派なナチュラリスト!
ノササゲは葉が独特でほっそりしています。見慣れればすぐにわかるようになります。莢はよく膨らみます。
莢は緑から鮮やかなショッキングパープルに変わります。その鮮やかさは、薄暗い林縁で見つけるとドキッとするくらいで、強い印象を受けます。
ヤブマメの花です。マメ科の花を蝶形花といい、この花では旗弁が紫色をして、翼弁と竜骨弁が白色となっています
ヤブマメの豆果です。ほかの植物に巻きついてヤブを作るので、ヤブマメといいます。豆果は目立ちませんが、キヌサヤによく似ています。
ヤブマメは不思議な豆です。地下に閉鎖花を付け球根ではなく大きなタネ(マメ)をつけます。このマメは大変美味でエダマメの食感、食味と似ています。