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小町の森 ブナ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

小町の森 ブナ

2014/11/14

「木では無い」と書いて(木へん+つくりは無)、「ブナ」と読みます。経済発展がすべての価値観より上にあった時代、木材の価値があまりないブナは、“木”扱いされず、見向きもされず、切り倒され、ヒノキや杉が植えられました。

時代が変わり、お金の価値より環境や安心、安全のほうに価値を置く人が多くなり、社会的価値観が大きく変わろうとしています。それはまさに環境革命ともいえる意識の変化ではないでしょうか。

ブナ科ファーグス(ブナ)属は降水量の豊富な地域に自生し、温帯落葉広葉樹の重要な樹種の一つで、東アジアの各地には固有のブナが自生します。

ブナ(Fagus crenata)は日本の固有種とされ、広範囲に分布しますが、手付かずのブナ林が広大な地域にわたって残る白神山地には、世界人類の宝ともいえる美しいブナの自然森が広がっています。白神の森はブナを優先樹種として、もみじ類が多く、ほかにハリギリ、イイギリ、トチノキ、ホウノキ、ミズナラ、クルミ等の落葉広葉樹たちが樹冠を作り、その下で低木や下草たちが幸せに暮らしています。

照葉樹林のような暗さや嫌味がなく、明るく、とても優しく、美しい女性のような“小町の森”、“美人の森”です。森を歩くと、気の遠くなる年月をかけ、落ち葉が積もり積もった様子でフカフカしており、水を蓄え、森自身が水の貯水地になっています。

都会暮らしで疲れた心と体を受け入れてくれるブナの森は、そこに居るだけでとても幸福感を感じます。ブナの森はどう見ても役立たずには見えず、私にはこの上ない聖域に思えました。

やさしさと寛容にあふれたブナの自然林。訪れた人はその懐にそっと抱かれたような気持ちになります。

直径1.5mほどのブナの巨木、肌には地衣類が付き、独特の景色を作ります。

地上から10mほどの高さに開いたクマゲラの巣穴。ブナが大きなキツツキにすみかを提供することができるまでには、200~300年の齢を必要とします。

ブナを主な木とする落葉広葉樹の森にはもみじ類も多く、秋には様々に色づきます。

豊作の年に落ちたどんぐりは森の動物を養うのですが、ブナの実は今年も不作、運よく発芽しても、日当たり条件が適さないと大きな木に育ちません。このブナッコにはまだまだ数奇な運命が待ち構えているのです。

JADMA

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