小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
最北の巨木と杏仁豆腐 バクチノキ
2014/11/28
神奈川県小田原市早川に、飛乱地(ビランチ)という地名があります。この地にビランジュという巨木が自生していることが江戸時代から知られており、そのまま地名になったといわれています。
ビランジュの和名はバクチノキ(バラ科バクチノキ属Laurocerasus zippeliana)。樹皮がはがれ、木肌があらわになることから、バクチに負けて身ぐるみはがされるのにちなんでつけられたらしいのですが、とても服を脱いだ素肌に例えられる木ではありません。生皮をはがされ糜爛(びらん)状態の皮膚に見えるほど不気味なその姿。ビランジュの漢字は定かではありませんが、私はビランジュ=糜爛樹の呼び方が相応しいと思います。
バクチノキは常緑の高木で、葉を見ればわかるように照葉で、東アジア照葉樹林帯に原生します。日本では関東以西に分布しますが、多くの都道府県で絶滅が危惧される、まれな樹種の一つになっています。
写真の木は「早川ビランジュ」と呼ばれ、国の天然記念物になっており、日本に自生しているバクチノキでは北限に近く、しかも最大の大きさです。株元6m、樹高25m、樹齢推定300年。最北の巨木と呼ぶにふさわしい“バクチの王様”です。
「早川ビランジュ」を見上げてみました。最北の巨人にふさわしい堂々たる姿です。
幹に手を置くと、木に同化して過ごしてきた歳月と歴史を感じるように思います。
木の周りに若木が何本も確認できました。しっかり次の世代の育成にも成功している様子で、将来は“バクチの林”ができることでしょう。
樹木が樹皮を脱ぐのは幹に絡みつくツタ、葛の類から逃れるためかもしれませんが、バクチノキにほかの植物は付いていませんでした。それにしても奇怪な樹皮です。
箱根板橋駅からほど近い自生地は、足元も定まらない傾斜地。この地に生えたのが幸いしたのでしょう。平坦地では開発のため切り倒される運命だったかもしれません
常緑の葉は硬く、互生し照葉です。葉を採ってもむと、あら不思議、“杏仁豆腐”の香りが! 甘い匂いでお腹が膨れる気がします。