小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
楓 フウ
2014/12/12
「楓」。この漢字を“カエデ”と読まず、“フウ”と読んでください。カエデには「槭」という漢字も当てられます。
フウ(Liquidambar formosana)は、フウ科フウ属(リキュドアンバー属)で、日本でも各地から葉の化石が発見されており、その昔は日本の風土に自生していたことがわかっています。種小名のformosanaは台湾産を意味し、現在この種は、台湾以南の中国大陸東岸省などに残存する、生きている化石植物と言えます。
フウは、落葉性の相当な高木であり、あまり枝分かれせず、主幹が天に向かって立ち上がるので、スタイルのよい樹形になります。葉は互生につき、葉の縁は大きく三つに分かれ、秋に美しく紅葉します。そして、球状の大きな集合果が、イヤリングのように垂れ下がるのも大きな特徴の一つです。
フウ属とカエデ属は、タネの形や実、葉の付き方が大きく異なり、縁故の遠い植物なのですが、両種の葉が似ていて共に美しく紅葉することから、混同されているようです。しかも困ったことに、カエデ属のトウカエデ(Acer buergerianum)を「三角楓」と中国では漢字で書くものですから、ますます混乱します。
では、「楓」という漢字は何を表すのでしょうか?「楓(フウ)」も「槭(カエデ)」も、葉のわりに葉柄が細く長いため、少しの風にも良くそよぎます。その様子を“フウ”、「楓」の漢字で表すのかもしれません。
近代の西欧的植物名の手法は、植物の違いを明確に分けて細分化し、一つひとつの理解を深めますが、東アジア“漢字的植物名”は植物の風情や情感、使用価値等で、植物を演繹的に区分けしているように思います。そして、その二つの植物名称に絶えず接している私たちは、多様な考え方を認容し、植物の呼称にも寛容になっているのでしょう。
青空と紅葉するLiquidambar formosana 楓「フウ」の大木、関東では11月~12月に色づきます。台湾楓、などの異名があります。
楓「フウ」の幹は、あまり横に広がらずに天に向かってまっすぐに立ち上がり高木になります。実は3cm程度ある独特の集合果でこの中に種が入ります。
楓「フウ」の幹についた小さな葉が真っ赤に紅葉しています。
楓「フウ」の葉は互生し、3裂した掌状葉です。この葉が楓「フウ」の大きな特徴の一つです。
こちらは、モミジのように5裂から7裂するモミジバフウ Liquidambar styracifluaと言う、北米の大陸東岸に自生する楓「フウ」仲間です。同じように美しく紅葉します。
唐カエデです。葉は互生し実の付き方等全く違う植物ですが、同じように美しく紅葉し、葉が楓「フウ」に似ていて、困った事に中国では三角楓と言います。