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再生と希望 タチスミレ等湿地の植物

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

再生と希望 タチスミレ等湿地の植物

2014/12/26

葦(アシ)や荻(オギ)は、人の背を越す高さになり、足の踏み場もないほど茂ります。これでヨシズや簾(すだれ)を作ったり、屋根の茅葺き(かやぶき)に使ったりしていました。しかし、生活様式が変わって、今ではほとんど利用しなくなっています。茂った葦などは秋には枯れ、湿地に厚く積み重なります。多いところでは50cmほども積み上がり、すっかり地面覆います。

もともと、葦や荻を利用する自然のサイクルの中で暮らしてきた植物たちは、生活環境が変化して衰退しました。その後には一様な葦と荻の原野が広がるだけです。河川もお行儀よく流れるようになり、自然の氾濫源や里原に生きてきた植物の多くは、絶滅が危惧されるため、国のレッドリストに載っています。

タチスミレ、ハナムグラ、トネハナヤスリ等の絶滅危惧種を守るため、自然保護団体や個人、大学の研究生などが集まり、茨城県菅生沼で冬に「野焼き」をしています。火を入れて葦などの堆積物を除くと、大地に光が届いて小さな植物たちの生息域が確保され、湿地に多様性が戻るのです。

タチスミレ(スミレ科ビオラ属Viola raddeana)は、東アジアの北東岸に自生しますが、各地で限りなく絶滅に近い種です。ここ菅生沼でも、発見当時は十数個体しかありませんでした。この野焼きによって現在、絶滅危惧種は個体数を回復し、数えるのさえ困難なほどになりました。

野焼きの原は、昔ながらの原野ではありません。それは里原というべき、人と植物が共に住まう場所です。今、そうした各地の里原で、絶滅危惧種に指定された植物たちが復活を遂げようとしているのです。

葦や荻の葉は硬く、珪酸を多く含みます。肌を出してこの湿地に入ると、傷だらけになるので要注意、虫もいますよ! 自然の中に入る時は長袖、長ズボンを装着しましょう。

冬枯れの湿地。葦、荻、ススキの堆積物が50~60cmも積み重なります。

素人の野焼きは大変危険です。風上から火を入れると、すごい勢いで燃え広がり、命の危険を感じるほどです。野焼きにはノウハウがあるので、決して真似してはいけません。

早春3月、野焼きの痕は緑に覆われてきました。

野焼きの後、真っ先に芽を出したのはシダ植物のトネハナヤスリ(ハナヤスリ科オフィオグロッサム属Ophioglossum namegatae)でした。絶滅危惧種に指定されており、宮城県と利根川水系、荒川水系、淀川水系の限られた場所でしか確認されていません。

ハナムグラ(アカネ科ガリューム属Galium tokyoense)は、本州以北の東アジアの湿った原野に生えるヤエムグラの仲間。絶滅が危惧される種ですが、野焼きによって多くの個体が見られるようになりました。種小名に東京の名前が付いています。

河川の氾濫原で生きてきた植物たちは、自然が攪乱されることによってできる環境を必要とします。火入れはその再現を意図したもので、発見当時わずか十数株だったタチスミレに劇的な効果を生み出しました。自然を愛する人たちの努力により、今ではこの菅生沼は日本最大の自生地となりました。

JADMA

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