小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
あなたは何者? アレナリア ユンカス
2015/02/06
見知らぬ土地には見知らぬ植物が自生していますが、地歴の関係が近い北半球では、それなりにこの植物がどの植物の仲間なのかと想像がつく場合が多いと思います。それでも、事実は小説より奇であり、不思議な植物に出合うことも少なくありません。
内モンゴルの岩山で、「花は双子葉植物のカスミソウ、葉は単子葉植物のイグサ、それで球根ができる」という、なぞなぞみたいな植物を見かけました。上半身は「人」で下半身は「馬」である想像上の生き物、ケンタウルスみたいな、まったく呆れてしまうほど妙な植物です。
図鑑や情報も少ない世界の植物に接する時は、頼りになるのは自らの記憶です。どれだけの回数で植物と触れたか? もしくは、『園芸通信』や図鑑を擦り切れるほど読んだか、で特定できる場合が変わってくると思います。
葉や茎の構造は同じ種であっても環境による変化が著しくて頼りにならない反面、花の構造は保守的で、同じ属であればよく似た構造と雰囲気を持っています。その植物の属名が学名でわかれば、今はインターネットで世界とつながっているので、その種にたどり着くのは時間と根気の問題と言えます。
また、ソーシャルネットワークサービス(SNS)には全世界の植物を特定をするPlanet Plant ID“惑星の植物鑑定団”という植物専門家グループがあり、わからない植物の名前特定に力を貸してくれる場合もあります。便利な世の中になったものです。
東アジア植物記は、深遠な植物の世界の扉を叩いたばかり、いまだ見ぬ妙な植物達に出合う旅はウキウキする感動にあふれています。
内モンゴルの岩山に、イネ科のような茎葉に白い花を咲かせている植物を見かけました。
全体の拡大写真です。株姿や葉はイグサ属か、カヤツリグサの仲間のようです。
花は上部で分枝し、1cmに満たない白い花をつけます。
一見してナデシコ科アレナリア モンタナ(Arenaria montana)に似ていると思いました。アレナリア モンタナはヨーロッパにあるピレネー山脈などに原生する植物で、園芸植物として人気があり、サカタのタネでも販売しているのでご存じの方も多いのではないでしょうか? アレナリア属に的を絞り、植物名の特定にいたりましたが、異国の植物特定には探偵みたいな執念が必要です。
ナデシコ科アレナリア属Arenaria juncea。シベリア、モンゴル、中国北部に原生する北東アジアの植物です。種小名の「Juncea」とはイグサ属juncas属を意味します。中国名を「灯心草蚤綴」といいます。学名も中国名でも意味はイグサ アレナリアとなっています。草丈は20~30㎝、長いものでは50cmを超えます。岩の割れ目など荒野に生えていて、抜いて見ると塊茎状に根の部分が膨らんでいて球根状になっています。
この記事の関連情報
この記事に関連するおすすめの商品は、園芸通信オンラインショップでご購入いただけます。