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おフランスとは何の関係もありません パリス ポリフィラ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

おフランスとは何の関係もありません パリス ポリフィラ

2015/03/13

パリス Paris属はシュロソウ科の多年草で、日本の山間地にもキヌガサソウ(Paris japonica)などいくつかの種が自生しています。植物の属名はパリスでも、おフランスのパリ(Paris)やハリウッドのパリス(Paris Hilton)とは何の関係もありません。

英国キュー王立植物園の研究によると、キヌガサソウは遺伝子量がヒト(2n=46本)の50倍もあるといいます。にわかには信じがたい話ですが、シダ植物のハナヤスリの仲間には染色体数が2n=480本ある種が存在するので、進化の度合いとゲノムの量は、無関係なのでしょう。でも、あまり意味のない遺伝情報が多すぎると、細胞分裂の際に余計な負担が増えるので繁殖が難しくなってしまいます。

写真は、ヒマラヤの麓からチベット自治区などの辺境に生えるパリス ポリフィラ チベタリカ(Paris polyphylla thibetica、花期6~7月)という植物で、草丈は90cm程度、外花被が緑色で、内花被がクモのように細長く見える耐寒性の宿根草です。腐食質の多い湿った斜面に自生していました。

幅広い葉が輪生し、その先に花が単生します。種形容語のpolyphyllaとは1カ所から輪生する葉が多数出ることを意味し、thibeticaとはチベット産の亜種を表します。この植物は腫瘍に効く漢方の妙薬とされ、現地の方々の貴重な換金手段になっているので、乱獲によって絶滅が危惧される植物のひとつです。

外花被(ガク)と内花被(花弁)という難しい言葉を使いましたが、ガクと花弁を区別することが難しい花が多いため、それらを一括して花被といいます。便利な用語ですので覚えておきましょう。

標高は3000m付近でした。背の低い木(灌木)が茂り、斜面から水が染み出ていました。そんな場所には決まってプリムラの仲間が生えています。写真はプリムラ ポイソニー。パリス ポリフィラ(Paris polyphylla)は、灌木の間に自生していました。

花の直径は7cm程度で、葉と同じ緑色です。花は葉から進化したことが納得できます。

ポリフィラの花の拡大写真です。花弁のように見えるのがガクにあたる外花被片で、黄色い糸に見えるのが花弁にあたる内花被片です。花被にハエが止まっています。この花の受粉に関係しているのかも知れません。

こちらは、昆明植物園で見かけたパリス ポリフィラです。地域によっていくつかの亜種があるようです。花被のほかおしべやめしべの構造がよくわかります。

JADMA

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