小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
天は二物を与えず セツブンソウ
2015/03/20
長野県塩尻市JR中央本線日出塩駅のホーム横に、セツブンソウの群落があります。小さな無人駅の脇は斜面になっていて、林が途切れ、里山として下草が刈られています。そばには保護区が設けられていますが、その場所より近くの民有地の方が、群落は大きく元気に育っています。
珍しいセツブンソウですが、この地域では先祖代々の墓に生える迷惑な草だったそうです。写真の場所には数株しか生えていなかったそうですが、草刈などの世話をして現在のような群落になりました。
セツブンソウ キンポウゲ科(Eranthisもしくは、Shibateranthis 属 pinnatifida)は、花の大きさ2cm程度、草丈は10cmに足りません。日本の関東より西に生える希少植物で、落葉広葉樹の葉が出ない早春の明るい林床で包葉を出し、小さな花被をつけます。花弁状の白いものがガクで、放射状に並ぶ蜜線状の黄色い付属物が花弁です。説明しないとわからないので、この場合「花被」といいましょう。
エランティスEranthis属は日本、朝鮮、中国など東アジアを通り南ヨーロッパまで分布するユーラシアの植物ですが、各国で独特に進化し地域、地方ごとの分化をしています。
日本に特産するセツブンソウ(Eranthis pinnatifida)は、ヨーロッパに自生するEranthis hyemalisなどの黄花種とは別属とする見解があり、シバテランティス(Shibateranthis) 属とする場合があります。この説を採用するとセツブンソウと近縁種はシベリアから朝鮮、日本、中国に及ぶ東アジアに固有の植物群になります。
セツブンソウは、生育も遅く1年のうち、せいぜい2~3カ月しか地上に姿を見せません。そして、タネをまいて花が咲くまで数年の月日が必要とされます。このように数えきれない群落になるまでどのくらいの手間と歳月が必要とされたのでしょうか?
自然にまかせてやぶにしていたらおそらく絶えてしまったことでしょう。すてきで愛らしいセツブンソウ。この花が小さな花であるのが悔やまれます。天は二物を与えてくれません。この場所では例年おおよそ3月中旬が見頃です。
JR中央本線日出塩駅横にある群落です。この群落を踏みつけて歩く人がいました。注意しようと思ったら、この土地の所有者でした。現在は埼玉県に住んでいてようすを見にいらしたそうです。
セツブンソウのアップ。白いガク片に黄色く放射状に花弁が並んでいます。中心に白いめしべが数本あり、紫色がおしべの葯です。ガク片の数はキンポウゲの仲間は一定していません。
セツブンソウの葉は苞葉といわれ、茎を包む1枚の葉です。1本の花茎の先に小さな花被をつけます。
暖かい地域では節分の頃に咲くのでセツブンソウといいますが、雪が積もる地域では雪解けにあわせて咲きます。愛らしくもはかない、春の妖精と呼ぶにふさわしい植物です。