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連載

風の電話 白花のムラサキケマン

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

風の電話 白花のムラサキケマン

2015/04/03

2011年、3.11から数えて5度目の春です。被災地の復興への道のりは未だ遠く、親しい人を亡くされた大勢の方々が、決して癒えない心の傷を負っていることを、忘れないようにしたいと思います。

『風の電話』は、岩手県大槌町のあるガーデナーさんによって、「一言も別れを告げることができずに、残された人がたくさんいるはず」という想いから、ご自宅の庭に作られました。白い電話ボックスにダイヤル式の黒電話、電話線はつながっていないのに、1万人以上の方々がここを訪れ、空にいる故人と会話し、心に折り合いをつけたのだそうです。

この庭は春になると桃、桜、林檎、山茱萸(サンシュユ)、連翹(レンギョウ)等の花木が咲き、この地方に根付いている下草が生え、癒しの景色になります。東アジア一帯にはどこにでも生えている雑草である、ムラサキケマン ケシ科キケマン属 Corydalis incisa(コリダリス インキサ)がここにも生えています。ところが不思議なことに、ここではすべて白花(アルビノ)なのです。

普通のムラサキケマンはその名の通りの色合いで、その紫色が遺伝的に優性です。しかし、劣性であるアルビノの遺伝子が固定されれば、劣性因子×劣性因子=劣性因子となる遺伝の法則により、その子孫はすべて白花になる理屈です。

全国には、いくつかの植物において、劣性因子の固定している地域的なスポットがあります。大槌町付近のムラサキケマンは、もしかすると『風の電話』の意図を理解しているのでしょうか。群れ咲く清楚な白い花は、ガーデナーさんやここを訪れる方々の心象に寄り添うようでした。

岩手県大槌町。船越湾を見下ろす高台に『風の電話』はあります。春霞の中に花木が咲き、夢の世界にいるようです。

これが『風の電話』。電話線はつながっていません。一言も別れを告げることができずに残された方が、故人と心で会話するために、ここを訪れるのだそうです。

こちらは岩手県宮古市の路上で見かけた、ムラサキケマンとその白花(アルビノ)です。いつも普通に見るムラサキケマンは紫色です。

『風の電話』があるガーデナーさんの庭。花木の下草に生えるムラサキケマンはすべてアルビノでした。専門的には劣性の因子が固定したものですが、ここを訪れる方々の心象に合わせているかのようです。

根際から短い茎が伸び、独特の3枚の葉を輪生する、シロバナエンレイソウ(別名:ミヤマエンレイソウ) ユリ科エンレイソウ属 Trillium tschonoskii(トリリウム チョウノスキー)もこの庭に下草として生えていました。

JADMA

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