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後光を背負うサトイモ科 ミズバショウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

後光を背負うサトイモ科 ミズバショウ

2015/04/17

洋の東西を問わず、人の徳を形に表す時に後光や光背、オーラや光輪を添えて絵画や像で表現することがあります。

サトイモ科の植物にどのような徳があるのかわかりませんが、この仲間には仏様の光背よろしく、その名も仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれる、花を引き立て、保護する器官が備わるのが特徴です。花は小さく、花らしい姿をしていません。中心の軸に群がって付いてさまざまな形をしており、全体を肉穂花序(にくすいかじょ)と呼びます。

この仲間は暖かく、湿った環境に適応した植物です。その中では珍しく北極を取り巻くように生えるサトイモ科植物がミズバショウ(Lysichiton、リシチトン)属です。東北アジアと北米北西部に各1種の2種が分布しています。

日本にはミズバショウ(Lysichiton camtschatcense、リシチトン カムチャトケンシス)が寒地の湿地に自生します。種形容詞のcamtschatcenseとはカムチャッカの意味で、この種が東アジアの東部寒冷地に自生することを表しています。

ミズバショウを見たことのない人でも「♪夏が来れば思い出す♪」という歌詞から始まる「夏の思い出」という歌をご存じでしょう。しかし、ミズバショウは夏には花が終わっています。春、雪解けと共に咲く植物ですので、この歌の中の情景と実際の開花期には違いがあります。それでも、湿地に生えるミズバショウは清楚で歌になるほど美しい植物に違いはありません。

別属の近縁種に仏炎苞が黒いザゼンソウ(Symplocarpus renifolius、シンプロカルパス レニフォリウス)があります。この苞の中に指を入れたら肉穂花序が温かいのです。気のせいということがあるので、簡便に温度計で測ったら外気温が10℃のとき、この苞の中は13℃でした。

ザゼンソウには雪国でいち早く咲く雪を溶かし、気の早い虫を独占する仕組みが備わっていました。単子葉植物のサトイモ科の植物は、実に多様でユニークな植物がたくさんあるので興味が尽きません。

白い仏炎苞を持つミズバショウ。中心の芯を肉穂花序といいます。この花被がサトイモ科の特徴で、花軸の周りに花弁のない花が集まっています。

東北の豪雪地帯、雪解け水が流れる湿地にミズバショウは生えていました。近くの小高い場所にはカタクリが群生しています。

仏炎苞とは聞きなれない言葉ですが、サトイモ科独特の植物用語です。この仏炎苞がさまざまな色と形を持っていて、観賞の対象にもなっています。

サトイモ科の中央花軸を肉穂花序といいました。この花序の先端がいろいろな色や形をして、付属体といいます。写真はユキモチソウ(テンナンショウ属、Arisaema sikokianum、アリサエマ シコキアナム)の付属体で、つきたての餅のようにプルプルしています。この付属体の下に花が見えますか?

指を入れると、ザゼンソウの仏炎苞の内部が温かいので、自宅で内部温度を測りました。 気のせいや五感を数値にするのが科学です。この時の外気温は10℃。内部温度は13℃でした。

JADMA

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