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椿の実情 チャンチン、ニワウルシ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

椿の実情 チャンチン、ニワウルシ

2015/04/24

菜種梅雨の合間にトウヘンボクが青空に向かって赤い新芽を出していました。その姿はあまりにも美しく、見とれずにはいられません。

“香椿”つまりチャンチン、学名トーナ シネンシス(Toona sinensis)センダン科トーナ属の種形容語のsinensisは中国産を表し、トウヘンボクという別名があります。この種はかなり高木になり、直立樹形をしています。4月の陽光の中で羽状複葉の新芽を出し、旺盛に生育していく落葉樹です。

チャンチンを知らない時に中国の植物園で“香椿”の看板を見つけ、「よい香りのツバキ」と思って上を見上げたのですが、それは羽状複葉の高木で、およそツバキとは似ても似つかない植物なので何かのまちがいかと思いました。

少し歩くと別の場所では“臭椿”の看板がありました。そして、それもツバキとは思えません。別名を神樹、日本名をニワウルシというニガキ科のエイランサス アリティシマ (Ailanthus altissima)を中国では“臭椿”と呼んでいます。

“椿”とは一体なんだろう? その疑問が心のもやもやとして沈殿しましたが、中国文学者、寺井泰名氏の著書『花と木の漢字学』(大修館書店)という書物を読み、“椿”の実情が見えてきました。

「紀元前3世紀頃荘子の書物に椿の記述があり。『大椿なる物有り、八千歳を以って春と成し、八千歳を以って秋と成す』と言う。」(寺井泰名著『花と木の漢字学』より引用)

まったく桁違いの長寿の木、仙樹を中国では椿(チン)というらしく、後になって、その伝説の樹木をイメージし、無理やり当てはめたのが“香椿”や“臭椿”なのです。

中国でいう椿(チン)と日本でいう椿(ツバキ)はまったく別物でした。日本のツバキは中国では山茶といいます。同じ漢字だからといって、中国の漢字を日本語で理解しようとしても無理な話だったのです。

中国では“香椿”の新芽をよく食べます。その香りは香水のような香りではなく、タマネギ、ニンニク、ゴマを上品に合わせたような食欲をそそる匂いです。油炒めにして食べましたが、歯ざわりがよく、今まで食べたことのない滋味豊かな味わいでした。

関東では珍しいトウヘンボクが東京都港区のお台場に植栽されていて、まっ赤な新芽を出していました。青空と鮮やかな赤色はとても印象的で、遠くから見ると花が咲いたように見えました。

“香椿”和名チャンチン、中国読みシャンチェンは、空に向かってまっすぐに立ち上がり、1年でとても大きく育ちます。この木は特に新芽の赤い品種です。

“香椿”という樹木を知らなかった時に、中国の植物園でこの看板を見つけました。よい香りのツバキでどんなツバキかとあたりを見回しましたが、ツバキらしい樹木が見当たらないのです。

看板がついていた樹木です。まったくこの樹木は私たちが思うツバキらしくないので、何かの間違いと思っていましたが、中国では単に“椿”というとこの樹木を指します。

エイランサス アリティシマ(Ailanthus altissima)ニガキ科エイランサス属を中国では“臭椿”といいます。大きな羽状複葉で、枝が少なく、がさつな感じが否めない落葉高木です。中国ではそのタネを「鳳凰の目」と表現するのです。樹木としてはとても成長が早いので神がかり的に見えるのかも知れません、和名を「ニワウルシ」といいますが、ウルシ類ではありません。

チャンチンはあまり分枝をしないで直立しますが、ヒコバエを多く出します。日本に自生しませんが、たまに公園などに植栽されます。

チャンチンの新芽は中国では野菜です。歯ざわりがよく、いかにも中国的な味わいがあります。

JADMA

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