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日本列島ができた訳と世界戦略 アサツキ、ハマエンドウ、ハマボッス等

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

日本列島ができた訳と世界戦略 アサツキ、ハマエンドウ、ハマボッス等

2015/05/01

三陸の海浜植物を見るために、宮城県南三陸町歌津(うたつ)の海岸に行きました。その途中の断崖には、きめの細かい泥岩層が垂直に切り立っていて、日本列島ができた訳が明確に刻み込まれているのでした。

私たちの足元は水平に動いていて、太平洋プレートは年に8cmほど日本海溝に向かって、沈み込んでいるといわれます。新生代が6,500万年前とすると、その時代からでも6,500万年×8cm=5,200kmも大地が移動した計算になります。

その海洋底は北アメリカプレートに沈み込みますが、上に乗った海山や海台は折り重なるように海溝のふちに乗り上がり、押し合い、へし合い、垂直にせり上がり付加体となって日本列島を作ったと考えられます。

そんな証拠を残す断崖の上に、いくつかの海浜植物が自生していました。アサツキは、ユリ科アリューム属 アリューム スコエノプラスム(Allium schoenoprasum var. Foliosum)といわれる多年草で、チャイブ類の変種とされ、海岸など北半球に広く自生します。

歌津の海岸では崖の崩壊地にも生えており、よく膨らんだ球茎が海に落ちて海流にのって世界に広がったようすが想像できます。その他にもハマエンドウ、ハマハタザオ、ハマボッスなどを確認できました。いずれの植物も海流を利用し、分布を広げる植物たちです。

南三陸歌津の断崖です。きめの細かい泥岩でできており、陸から遠い海洋底で静かに水平に積もった泥の塊です。水平の層が垂直になったのは移動する大地に押されたからです。この岩が波にさらされ、碁石のようにピカピカな丸い石になって散らばっていました。この辺りの地層からは歌津魚竜といわれる化石が発見されています。

垂直に押し上げられた地層の間に白い石灰岩が見られます。この時代の三陸の海は暖かく、珊瑚が育つ環境だったのです。

歌津の断崖の上にはまるで誰かが植えたかのように、アサツキの群落が広がっていました。

そのアサツキの球茎を採取して、海水で洗って食べました。根元の赤いアサツキは見た目もきれいで、ピリッと辛い大人の味がしました。アサツキは海岸にもよく生え、津波や嵐の時は波をかぶる場所に生えていたので、タネのほかこの球茎も海流にのって世界を旅しているのでしょう。

ハマエンドウ(Lathyrus japonicus)マメ科ラシルス属。園芸植物のスイートピーと同じ仲間で、日本各地の砂地や岩場の海岸に生え、春~夏に紫色の花を咲かせます。葉の先端に巻きヒゲを持ち、羽状複葉の葉を伸ばし広がります。

種形容語のjaponicusは日本産を表しますが、世界的に分布します。海は世界に通じていて、タネは海流にのって広がりますので、海浜植物の多くは分布範囲がワールドワイドです。

ハマエンドウの花はまるでスイートピーのようにきれいです。花弁は全部で5枚あり一番内側で下に見えるのは竜骨弁といわれる花弁が2枚合わさったものです。側面に見える花弁は翼弁と呼ばれ、竜骨弁と共に生殖器官を守ります。一番上にある1枚の花弁が旗弁と呼ばれ、よく目立ち、虫などの花粉媒介者や人をひきつけます。

ハマハタザオ(Arabis stelleri var. Japonica)アブラナ科ヤマハタザオ属。毛の生えた、へらのようなロゼット葉から白い十字花を咲かせます。種形容語のstelleriとは星を表しますが、何が星にちなむのかわかりません。日本や北東アジアの海岸の砂地や岩場に春早くから生える、小型の多年草です。

ヤマハタザオ属にはオーブリエチアのような花姿が美しい種があり、西南ヨーロッパから地中海の山岳地帯に自生するアラビス(Arabis caucasica)などが園芸植物として栽培されています。この仲間は、タネのついた鞘がハタザオのように立ち上がるので、ハタザオと和名がついています。

北海道~沖縄まで日本では普通に海岸で見られるハマボッス(Lysimachia mauritiana・リシマキア マウリチアナ)サクラソウ科リシマキア属。種形容語のmauritianaとは、インド洋に浮かぶモーリシャス島を表し、日本全土のみならずインド洋にまで広く自生することを表しています。

海浜植物たちを見ていると、世界的視点をもって塩害というリスクを冒してでも、種の生存を考えているように見えます。海は世界へとつながっています。

JADMA

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