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幽霊のごとき ギンリョウソウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

幽霊のごとき ギンリョウソウ

2015/08/07

なぜか夏になると怪談話がちまたを賑わせます。ムッとした湿度に包まれる夕暮れ、白い薄絹をまとう青白い幽霊は、話をするだけで背筋が涼しくなるような気もします。

植物の世界にも、別名を「幽霊タケ」と呼ばれる奇怪な生き物がいます。ギンリョウソウMonotropastrum humile(モノトロパストラム ヒューミレ)は、夏に地下から透けて見えるような、白い花茎を伸ばして花を咲かせます。全草に色素がないのですが、不気味に柱頭の先だけが青く、うなだれる姿はまさに幽霊そのものです。

この植物は葉緑体を持たないため、光合成をして栄養を作り出すことができません。では、どのようにして生きているのでしょうか?

山野は生き物たちの複雑な生態系を持っていて、動物や植物だけではなく、菌類も重要な構成要員です。菌類は菌糸で周囲の樹木との間で共生関係を作ります。植物は光合成の産物である糖を渡し、菌類は土壌からミネラルなどを植物に供給します。

ギンリョウソウは、周囲の樹木と菌根を作るベニタケ類に寄生して、栄養を得ていると考えられています。つまり、菌類を利用して樹木が合成する栄養を間接的に得て生活をするわけです。

とても複雑な生活様式ですが、自然界は多様で、複雑です。実はこのギンリョウソウは、最近の遺伝子の塩基配列の研究から近縁関係を解き明かすAPGという分類体系では、ツツジ科とされました。

 
ツツジの仲間といえば、花の形がなんとなくドウダンツツジなどの釣鐘状花に似ていますね。ギンリョウソウはどのように、今の生活にたどり着いたのでしょうか?

ギンリョウソウ Monotropastrum humile(モノトロパストラム ヒューミレ)。種形容語のhumileとは、背が低いことを表していて、丈は10cm程度と小型です。それにしても植物でありながら、その本業である光合成をやめてしまうとは、一体この植物にどのような過去があったのでしょうか?

ギンリョウソウは、中国では「水晶蘭」といいます。暗い森の中で透き通るような白さです。しかし、色素がないだけで白い色素があるわけではありません。細胞内の液胞に含まれる泡が白く見えるのです。

ギンリョウソウは地下茎で株を増やすほか、種子繁殖でも増えていきます。薄暗い林床に白い色はよく目立つはずです。そして柱頭の青色と葯の黄色は反対色をしていて、虫たちに存在をアピールするのでしょう。

ギンリョウソウ(銀竜草)が暗い林床で花を咲かせる頃、やや明るい黒松林では、地元の方が「キンリョウソウ」と言っていた、その仲間が顔を出していました。「キンリョウソウ(金竜草)ね」なるほど、うまいネーミングです。シャクジョウソウ 錫杖草 Monotropa hypopithys。種形容語は針葉樹の下に生えるという意味を持っています。

シャクジョウソウの自生地は、明るい黒松の疎林でした。ギンリョウソウみたいに群生せず、日当りがよいせいか日に焼けたギンリョウソウといった感じです。

こちらは、タシロラン 田代蘭 Epipogium roseum ラン科エピポギューム属です。ツツジ類やラン類のように菌類と濃密な関係を作る植物から、自らは光合成をせず、栄養源を菌類に依存する菌類従属植物が生まれてきたのでしょう。

タシロランは大変珍しいランです。7月の海の日、人々の歓声が聞こえる海際の海岸林でした。落ち葉が厚く堆積して、腐葉土の香りが立ち込める場所です。三浦半島観音崎にて撮影。

JADMA

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