小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
魔法の森と赤頭巾 スギとクルマユリ
2015/09/04
出羽の国を流れる最上川は、米沢に発し、山形盆地を流れて庄内で日本海に注ぎます。その最上峡谷には土湯杉巨木群生地があり、樹齢1000年といわれる自然杉の古木が生えています。
その姿は尋常な姿にほど遠く、株元で枝分かれして、もがくようにのたうつのです。その名も誰が名付けたか「幻想の森」。
スギ ヒノキ科スギ属Cryptomeria japonica(クリプトメリア ヤポニカ)は、あまりに身近な樹木ではありますが、中生代に栄えた古い種族で、東アジアの日本に固有の一属一種の珍しい常緑針葉樹です。
地域毎に独特のタイプが生えていて、「幻想の森」では根元から複数の枝を出し、株立ちになる古木が多く見られます。日本海豪雪地帯のスギは、積雪の影響を受け株元で芽を出すのです。
この場所は訪れる人も少なく、ヒグラシが鳴く音しか聞こえません。森の中には深い緑とこげ茶色のトーンしかなく、薄暮の時が迫っていました。
そんな魔法使いの森に、迷子の赤頭巾のようにクルマユリ ユリ科Lilium medeoloides(リリューム メデオロイデス)が咲いているのでした。
山形県と秋田県の県境にある最上峡です。日本有数の豪雪地帯であり、「幻想の森」は深い雪に抱かれ時を刻んでいます。
まっ直ぐ、天に向かって育つスギですが、ここでは枝を広げ、うねうねともがくように生えています。
ひときわ大きな株です。雪の重みで頂芽がつぶれたり、傷ついたりしたのでしょう。不思議な樹形です。
「幻想の森」はひとりでいると、森のダークマターに飲み込まれるような吸引力を持っていました。
そんな不思議の森で、周りを明るく照らすようにクルマユリが咲きます。このユリは東アジアの冷涼な地域に自生し、日本では本州中部以北などでは山地の草原で見かけますが、東北では暗い森の奥深くで見ることがよくあります。
クルマユリは葉が輪生するのが最大の特徴です。車といっても現代の車ではなく、牛車など古式ゆかしい車輪です。学名Lilium medeoloidesの種形容語の medeoloides とは、同じくユリ科メデオラ属 Medeola に似たという意味です。