小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
組織変更 カリガネソウ
2015/10/02
推定されている被子植物は約20万種類。1日に1つずつ覚えると548年かかる、途方もない量です。その植物たちを利用したり、仲よく暮らすためには、まず名前を覚えないといけません。
効率よく覚えるには仲間同士で区分けをするとわかりやすいため、分類の手法が考え出され、科>属>種に分かれています。今までの分類は花の構造や形態を基準にされてきましたが、よくわからない種を便宜的に1つの科にまとめてしまったところもあり、釈然としないこともありました。
近年、遺伝子解析による系統学が進歩し、葉緑体やミトコンドリアのDNAを比較することによる植物分類の手法が発展してきました。すると今までの植物分類とは、つじつまが合わない種類が多いことがわかってきたのです。
それらは新しい分類となり、APG体系と呼ばれます。一番新しい分類として2009年に公表されたAPG IIIによって、多くの科や属がしかるべき場所、適材適所に組織変更されました。
この分類ではユリ科やゴマノハグサ科などは大きく変わり、ネギ属はヒガンバナ科へ、キンギョソウ属はオオバコ科へ、カエデ科がなくなりムクロジ科へ統合されました。
私たちの世界は絶えず変化しています。変わらないことは「変わらないものはない」という事実だけかもしれません。今回の東アジア植物記は今まで所属していた科も属も変更になった植物、カリガネソウの話です。
旧分類ではクマツヅラ科カリオプテリス属Caryopterisb divaricataのカリガネソウは、東アジアの宿根草で、草丈は約1mあり、横に広がる草姿をします。種形容語のdivaricataとは横に広がることを意味します。
カリガネソウはAPG IIIではシソ科トリポラ属Tripora divaricataとなり、一属一種に分類されました。なるほど、植物体の構造や花を見るとクマツヅラ科よりはシソ科に分類されることの方がしっくりします。
花の構造は以前vol.63で述べた虫媒に特化した唇弁花で、シソ科に見られる特徴です。
カリガネソウは夏に開花しますが、花を咲かせる頃になると全草から臭いにおいを出します。そんなにおいに惹かれる連中もいるのでしょうが、好きになれる香りではありません。日当たりと乾燥しない環境を欲しがり、適地ではしばしば群生が見られます。今年の夏に群生の中から白花で素心の花を見つけました。
系統学上、今までの組織から離れたカリガネソウTripora divaricataは一属一種、素心(初心)に戻り日本の野山に花を咲かせます。