小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
春は里から、秋は山から [後編] リンドウ
2015/10/30
前編はこちら
世界にはたくさんのリンドウが自生しています。ゲンチアナブルーといわれる青い花ばかりではありません。黄色いリンドウ、お茶にするリンドウ、大きな葉を展開するリンドウ、春に咲くリンドウ、つるを伸ばすリンドウ、爪の先ほどの小さなリンドウもあります。
リンドウ属の多様な一面を少しのぞいてみましょう。まず初めは東アジアに住む私たちには思いもつかないリンドウからです。
ヨーロッパ、アルプス山麓の湿地などに自生します。草丈は1m以上になる大きなリンドウでGentiana lutea(ゲンチアナ ルテア)といいます。種形容語のluteaとは黄色を表します。オランダ北部の小さな街にある小さなハーブ見本園で花を咲かせていました。こんな辺ぴで小さなガーデンを訪れる日本人はいなかったそうで、来園記念にサインを求められました。
黄色い色素を持つリンドウで、花もリンドウらしい釣鐘状花ではありません。欧州でもアジアと同じようにこの植物の根を生薬として使います。所変われば品が変わりますが用途は同じです。
雲南省昆明は人口500万人。交通網が整備され、東南アジアのターミナルとして発展をしています。この街には茶城なる茶市場があり、おびただしい店が軒を連ねてお茶を売っています。
中国には茶葉外茶といわれるお茶が山ほどあり、私たちの想像もつかないものが売られています。これはGentiana sino-ornate(ゲンチアナ シノオルナタ) の山取り品と思われる乾物です。このリンドウは筒状花に白いストライプが入る美しい種で雲南西南部の日当たりのよい高原に自生します。もう!こんなに採ってしまって絶滅しないか心配です。
このリンドウは中国の辺境に自生し、伝統的な薬草として黄疸、糖尿病、リユウマチなどの治療に使われてきました。Gentiana crassicaulis(ゲンチアナ クラッシカウリス)で雲南などの高山草原に点在的に生えています。草丈は30cmくらい、主脈のはっきりした大きな根出葉の葉腋からいくつかの花茎を立ち上げます。その中心に頭花のような花の固まりをつけ、小さな釣鐘状のリンドウらしい花を咲かせます。
明るい草原、開けた所を好むリンドウ類の中でも、このリンドウはなぜか山地の森の中に生えています。花は明らかにリンドウですが50cm程度のつる性で、他の草に絡んだり、ズルズルとはいます。ツルリンドウ(蔓竜胆)Tripterospermum japonicum、トリプテロスペルマム属は、日本を含む東アジア北部に自生する多年草で夏から秋に薄い青色をしたリンドウ独特の花を葉腋に咲かせます。ツルリンドウを見ているとリンドウ類の多彩な姿が垣間見えてくる気がします。