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崖っぷち [前編] ハマギク、コハマギク

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

崖っぷち [前編] ハマギク、コハマギク

2015/11/13

今年は例年になく秋が早い気がします。山の木々が色づく頃には、岩手県の内陸では雪が舞い、早くも冬の訪れを予感させました。一方、三陸の海を臨む斜面では陽光が降り注ぎ、大きな白い花を咲かせるハマギクやコハマギクが開花期を迎えます。

キクの仲間は、植物の中では最も進化と分化をした植物といわれ、全種子植物の10%程度がキク科です。東アジアの日本には300種を超えたこの仲間が自生し、意外と地域性を持ち、その土地に特有の野生ギクが生えています。今回は三陸海岸を主な自生地にするキクのお話です。

10月半ば、岩手県早池峰山登山口付近のようすです。岩手県の沿岸部に行く途中に、車窓から美しく色づくブナやカエデが見えました。思わず「おおおー」とばかりに声が出るくらい美しい景色です。少し標高が上がるとダケカンバの林でした。そこでは吹雪が舞い、厳しい冬の訪れを感じさせられました。

2時間足らずで内陸から沿岸部に出ます。晩秋でありながら陽光があふれ、海が青く輝く景色が広がっていました。岩肌に目をやると、切り立った崖には白い花の群落があそこにも、ここにも咲いています。穴通し磯といわれる岩肌に白いキクが咲いているのがわかりますか。

近寄ってみると、それはハマギクでした。ハマギクChrysanthemum (Nipponanthemum )nipponicum キク科クリサンセマム属(キク属)。青森県から太平洋岸に沿って茨城県まで、日当たりのよい海岸の崖などに自生します。日本の野生ギクとして最大の花を付けるキクです。種形容語nipponicum(ニッポニカム)は日本固有であるキクを意味します。

ハマギクは多年草ではなく、低木です。大きな株では数十cmになるでしょうか。十分な日照のある場所を好み、他の植物が生えることができない砂岩やれき岩の海岸崖をその生息地とします。海岸崖は厳しい環境です。高潮や嵐などで枝がちぎれると漂流して、別の海岸に流れ着くとそこで根を出す、したたかな海浜植物でもあります。

花の大きさは6cm程度で野生種としてはとても立派な白い花をつけます。どこか園芸種のシャスターデージーを思わせる風情です。葉はヘラ形肉厚で、クチクラに覆われ光沢があります。冬は落葉し、春になると株元から芽が出てきます。

コハマギクChrysanthemum yezoense キク科キク属。こちらも日本に固有のキクで、北海道から青森県、三陸沿岸を通り、茨城県までの海岸に自生しています。種形容語のyezoense(エゾエンセ)はエゾの地を意味します。草丈は10cm程度で地下茎で増え、群生する性質が強い多年草です。当たりのよい崖などに生えます。

ハマギクは質実剛健で男性のような野生ギクですが、コハマギクは風情が端整で優しく、女性的な感じがします。花の大きさは4cm程度あり、葉は掌状で浅く5裂します。これら日本の野生ギクは恋愛には大らかなようで、他のキクとの交配が可能な種が多いのです。そのあたりもキク科が最も適応分化をした植物であるゆえんかも知れません。

後編に続きます。

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