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崖っぷち [後編] イソギク

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

崖っぷち [後編] イソギク

2015/11/20

前編はこちら

今回は、海を臨む崖っぷちに生える日本の野生ギクの続編です。コハマギクは北海道から茨城県の海岸まで、ハマギクは青森県から茨城県までに生えるキクでしたが、イソギクは千葉県から静岡県までに自生します。さらに西の海岸部には他の野生ギクが自生します。

降水量の多い日本の環境では日の光が得られる環境であれば、植物が生えないようにする方がむしろ難しいのです。それは草むしりをするたびに思うことです。

ほとんど土がない岩の上や急峻な崖にも植物は生えます。どのようなわけかイソギクもそのような場所を好んで咲いているように見えます。

日当たりを特に好むため、日を遮る木々が生えない場所が必要なのでしょうか。しかしそのような場所は風当たりも強く、侵食もたえず起きている場所ですのでハラハラ、ドキドキの生きざまかもしれません。

私は危険と隣り合わせで咲く植物を、不思議な共感を持って「崖っぷち植物」と呼んでいます。

「そうか、お前も崖っぷちか!」植物の生きざまと人の生は、波乱と危険と不安にあふれています。それでも花を咲かせるために日々生きましょう。できることならば崖から転げ落ちることがないように。

土壌のない岩の上や今にも崩れそうな崩壊崖に生えるイソギクです。危なっかしくハラハラ、ドキドキのように見えますが、それでもたくましく、晩秋に花をいっぱい咲かせてくれます。

イソギク(磯菊)キク科クリサンセマム属Chrysanthemum pacificum。海岸の岩場に生える多年草です。株立ちになり、葉は厚く、浅く3~5裂し、表面は緑色です。裏面は白い毛が密生して白く見えます。園芸店にも出回ることがあるのでご存知の方が多いかと思います。

イソギクの花のアップです。キク科最大の特徴は、小花が集まって花序をなすことです。 これを頭花といいます。キク科の頭花は、管状(筒状)の花と舌状の花の集まりで、イソギクは筒状花だけの頭花で、タンポポは舌状花だけ、ひまわりはバランスよく筒状花と舌状花が配置されています。

日本にはたくさんの野生ギクが地域ごとに分化して生えています。イソギクの種形容語 pacificum(パシフィクム)は太平洋を意味し、茨城県から伊豆諸島を含む静岡県までの太平洋沿岸に生えることを示します。

イソギクにとって崖っぷちは危険と隣り合わせではあっても、他の植物との競合がないため、意外と居心地がよい場所なのかも知れません。しかし、イソギクはそのような環境に適応するため自らの姿、形を変えてきたと思います。次号ではなぜイソギクはこのような場所で生きられるかの謎に迫りたいと思います。

JADMA

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