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雑種性と倍数性 キク科キク属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

雑種性と倍数性 キク科キク属

2015/12/04

キク科キク属(クリサンセマム属)は東アジアに分布の中心があり、私たちの身の回りには野生のキクが生えています。

北海道から三陸地方に生えるコハマギク。三陸地方を中心に生えるハマギク。中部地方の高山などに生えるイワインチン。関東地方の海岸を中心に生えるイソギク。近畿地方以西から広く東アジア南部までに生えるシマカンギクなどです。

野性のイソギクを観察している時に、黄色い筒状花と白い舌状花を持つ株を発見しました。 それはハナイソギク Chrysanthemum × marginatum といわれ、イエギク(栽培ギク)との雑種の株でした。自生地が人の居住区に重なって生じた現象です。キク属は自由恋愛主義で容易に種間雑種を作るとされています。

さらにイソギクを調べると、同属のイワインチンの染色体数は、9対=18本(2倍体)に対し、シマカンギクは4倍体、そしてイソギクやコハマギクは10倍体と言われています。動物では染色体が倍に増える変異は難しいのですが、植物界では普遍的に起る現象です。

一般に染色体の倍加が生じると、その入れ物である細胞が大きくなるので植物体は大きくなります。細胞が大きくなると当然、液胞の量も増えるので乾燥に強くなり、環境に対する適応性も向上すると思います。

イソギクはそうした進化を繰り返し「崖っぷち」に生える術を獲得したようです。世界に生える種子植物の10%はキク科です。このグループは最も繁栄している植物のひとつです。きっと雑種性と倍数性を駆使して分化し全世界に広がっていったのでしょう。

波の飛沫がかかる、爪木崎の海岸崖に生えていました。イソギクChrysanthemum pacificumキク科キク属。染色体数は10n 90の10倍体といわれます。

ハナイソギク Chrysanthemum x marginatum。イエギク(栽培ギク)との雑種です。これは種間で生じた雑種ということです。種形容語 x marginatum は縁取りを意味し、この植物の頭花の形状を現します。

こちらは、赤いイエギクとイソギクとの雑種でアカバナハナイソギクといいます。イエギク(栽培ギク)は6倍体、イソギクが10倍体ですから、このハナイソギクは8倍体でしょうか。

シマカンギクChrysanthemum indicumキク科キク属。日本の近畿地方以西から東アジアに広く分布しています。種形容語はインドを表しますがインドには自生していません。学名をつけた人には、東アジア南部もインドの一部と思っていたのでしょう。北九州の山地で撮影しました。黄色いカーペットのように広がり、花を咲かせるシマカンギク。時には懸崖キクのような株を見ることもあります。

シマカンギクはいかにも寒菊や小菊の風情です。シマカンギクの変種が現在の栽培ギクの成立に関わっているとされます。4n 36の4倍体です。

イワインチンChrysanthemum rupestreキク科キク属。種形容語は岩に生えるという意味があります。私が見た株は、確かに岩に生えていました。本州中部以北から東北南部の高山に生える植物です。染色体数は 2n 18でキク属の基本形。倍数性の低い野生キクほど起源が古いと思っても間違いはないと思います。この植物の葉はハーブのようによい香りを出します。めったに出会える植物ではありませんが鼻を近づけてみるとよいでしょう。

JADMA

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