小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
山には山の [後編] アザミ
2016/01/07
前編はこちら
今回は「海には海の」アザミ、海岸に生えるアザミのお話です。海岸線の長い日本には、その環境で分化した多くの固有種があります。しかし、海岸線の多くはレジャーのために開発されており、そこを生息域とする植物には苦難の時代が続いています。
まずはじめは、私が住んでいる神奈川県では残念ながら絶滅危惧種になっている、ハマアザミからご紹介します。
ハマアザミCirsium maritimumは関東から九州の海岸に生育する海浜性のアザミです。強い風がいつも吹いているのでしょう。背丈があまり伸びずに花を咲かせます。種形容語のmaritimumとはmarin (マリン)、海を表します。
ハマアザミ最大の特徴はずんぐりとしていて、葉肉が厚くテカテカしていることです。葉は硬くて触るとやはり痛い。根っこがおいしいらしいのですが、絶滅のおそれがある地方では、そっとしておいて欲しいと思います。
葉が深く切れ込み鋭いトゲになり、蕾がイガグリのようになるイガアザミCirsium nipponicum var. Comosum。ナンブアザミの海岸型と言われる変種です。関東地方の海岸部に生えます。
シマアザミは、南西島しょの海岸の砂浜や岩場に生える質実剛健なアザミです。葉肉も厚く、表面は海浜植物そのものです。他の植物を見ている時にお尻にトゲが触れ、痛い思いをしました。沖縄では白い花を咲かせる個体しか生えていないようです。
戦後70年が経ちました。「あざみの歌」は焼け跡から立ち直った日本人の琴線に触れる歌詞とメロディーだったのです。同時にアザミの花も人々に愛され、ドイツアザミ、寺岡アザミ、楽音寺アザミ、手毬アザミと品種改良が進み、切り花や鉢植えが消費されていきました。時代や世代は変わり、「あざみの歌」を知らない世代が増え、昭和は遠くなりました。そして、同じように園芸種としてのアザミも姿を消そうとしています。しかし、アザミはいつも私たちの身近に花を咲かせているのでした。