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砂にうずもれて [後編] ハマナシ 

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

砂にうずもれて [後編] ハマナシ 

2016/01/21

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北海道石狩の海浜植物は移動する砂の中で暮しています。あるものは砂にうずもれ、それをつなぎ止めます。砂が少しでも安定すると違う植物が生えてきます。浜からわずかにでも内陸に入ると、植物相は格段に豊かになっていきます。そして、そこを代表する植物と言えば、それはハマナシでしょう。

ハマナシRosa rugosaバラ科バラ属。種形容語のルゴーサとは、5枚の花弁にシワがあるという意味を持ちます。リンネの弟子として有名なCarl Peter Thunberg(カール ピーター ツンベルグ)の命名です。太平洋岸では茨城県にその北限自生がありますが、北上するほど個体数が増え、北海道には見渡す限りの群落があります。

浜から少し内陸に入り、砂が安定した場所になると、見渡す限りハマナシが生えていました。一面にハマナシの赤い実が広がる景色は実に感動的です。

ハマナシは、美しい日本のバラです。その香りは、他のバラにない清涼感あふれるものです。葉は厚く複葉で、毛が密生していて塩分飛沫から組織を守ります。バラ属は北半球に広く自生し、日本の原種は10種を超えます。東アジアは特に野生バラが豊富な地域で現在の園芸種のバラ育成に重要な貢献をしています。

ハマナシは、砂がある程度安定した場所に生えて地下茎で広がります。普通に見るハマナシは2m程度の高さにもなる落葉性のかん木ですが、風が強い石狩浜のハマナシは、地を這うようにほふくします。赤くピカピカに光を反射するハマナシの実は、砂浜に赤い宝石が散らばっているかのように見えます。

よく熟れたハマナシの実はそのまま食べても結構おいしいものです。「浜梨」が東北弁でなまったため「浜茄子」と呼ばれるそうですよ。標準語でハマナシです。大量のビタミンCを含み、ビタミン爆弾ともいわれます。種を取り出してジャムにして食べました。それは、それは美味、美味!!石狩浜ではキタキツネの食べ物になるとか。ここのキツネは美食家です。

黄色い頭花を咲かせるカセンソウInula salicina var. asiaticaキク科イヌラ属(イヌラ サリシナ バラエティー アジアティカ)が咲いていました。日本の中部では高原の湿原に生える植物です。種形容語のサリシナとはヤナギのようなという意味です。まわりにはヒロハノクサフジVicia japonicaマメ科ビキア属が生えています。こちらはソラマメと同じ仲間です。属名と種形容語を合わせて日本のソラマメという意味を持ちます。

アキグミの株元にはエゾカワラナデシコDianthus superbus L. var. superbusナデシコ科 ナデシコ属が見えます。本州に自生するカワラナデシコの変種です。種形容語のスーパーバスとは気高く美しい姿を表します。八頭身の大和ナデシコの化身かも知れません。

シロヨモギArtemisia stelleriana キク科アルテミシア属。白い毛で覆われた日本の北部から太平洋、オホーツク海沿岸に生えるヨモギの仲間です。種形容語のステラーリアナとは、カムチャッカの植物を採集したドイツ人分類学者 Georg Wilhelm Steller に因みます。全体が白く美しいので園芸植物にしようと企てましたが、野育ちのため草姿が一定せずに断念した思い出があります。

砂浜は移動し、栄養源を保つ土壌がなく、貧栄養状態にあります。草が生え、砂が安定するとススキなど内陸性の草本が増え、腐植が作られて土ができます。そうすると海浜植物は勢力を弱め、カシワなどの樹林につながります。石狩浜の海浜植物は微妙な自然のバランスの上に花を咲かせていました。

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