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泰山のフローラ [前編] カイドウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

泰山のフローラ [前編] カイドウ

2016/02/16

日本人に一番有名な山は?と問えば、「富士山」とほとんどの人は答えると思います。では、漢民族に問えば、それは「泰山(たいざん)」と答えるでしょう。

その山は冥界の入り口、頂上には人の寿命が記された原簿があるいいます。中国発祥の地、黄河流域の華北平原にこつぜんとそびえ、多くの民間伝承で語られています。紀元前、この地域に栄えた都市国家を統一した英雄、始皇帝にちなむ山でもあります。

標高は1545m。中国には8000mを超える山々など、有名な高峰はいくらでもあるのですが、その中でも中国人なら誰でも一度は登りたいと言われ、彼らの尊崇を一身に集めるのが世界遺産である泰山です。

この山に、どのような植物たちが生えているのか見てみたいと思います。

山東省泰安市に座する泰山を宿から眺めました。単独峰ではなく連山です。最高点は1545mですが、麓の標高が低く、周りが華北平原の一部なので悠然とした山容を誇ります。

麓から頂上まで7300段の石階段が延々と作られています。行程は、人によってまちまちですが、5~10時間ほどあります。泰山から見る日の出は、この国では、最も早い日の出とされます。

始めは緩々上れますが、上に行くにしたがい情け容赦ない傾斜角度になります。足を乗せる幅が狭く、転げ落ちれば命の保証はありません。重機のない時代に行われた、この土木工事には驚くばかりです。

頂上からは4000年前の竜山文化の発祥の地が一望できます。孔子、孟子などが起源前に活躍した斉の国、魯の国が霞の間からのぞいています。ピンク色に染まる頂上にはカイドウが咲いていました。この花は、蕾の頃は赤く、咲き進むと色が薄くなっていきます。カイドウは、蕾が特に美しい花だと思います。
唐の治世を作った玄宗皇帝はいまだ眠そうな楊貴妃をカイドウの蕾にたとえ「海棠の眠り未だ覚めず」といった故事で今に伝えられています。

カイドウはリンゴ属。北半球に広く多くの種があり、東アジアの中国にはいくつものカイドウが原生しています。漢名を「海棠」と書き、和名はこれを音読みで倣いました。泰山は、紀元前から多くの人が上る山なので、このカイドウが植栽されたものである可能性を排除できません。しかし、この地域にはコホクカイドウという実カイドウの一種が自生します。
コホクカイドウ 湖北海棠 マルス属 Malus hupehensis。このカイドウには、白花品種や蕾が赤く色づき、咲き進むに従い色が薄くなる株があります。リンゴ属なので小さいですが、リンゴみたいな実が付きます。種形容語hupehensisは湖北省という意味を表します。

コホクカイドウの足元にはヒロハヘビノボラズ メギ属 Berberis amurensis(ベルベリス アムレンシス)が小さな花を咲かせていました。種形容語amurensisはアムール地方という意味です。

次回、[中編]ではレンギョウ、ライラックについて見てみたいと思います。

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