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泰山のフローラ [中編] レンギョウ、ライラック

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

泰山のフローラ [中編] レンギョウ、ライラック

2016/02/23

泰山(たいざん)は中国三大宗教のひとつ、「道教」Tao-ism(タオイズム)の修練の場でもあります。その教義は私にとってにわかに理解できるものではありません。漢民族の土着の教えは、その地域と風土の中で長い歴史に育まれたものです。

泰山には東岳大帝という神様がいて、人の生死をつかさどり、その娘、碧霞元(ヘキトンカン)君は女性の守護神として絶大な人気があります。

邪悪なるもの、悪鬼、悪霊には「ヘキトンカン、ヘキトンカン、ヘキトンカン」と呪文を唱えるとそれは、退散(泰山)するとか、なんだかダジャレみたいですね!

泰山連山の最高峰は玉皇頂と呼ばれます。その頂から下界を見ると広大な華北平原が丸く、青く霞んで見えました。

玉皇頂付近にはさまざまな皇帝の偉業を称える石碑があります。その中で異彩を放つのが漢の武帝(在位:紀元前141~87年)が建てた、この石碑です。それは無字碑と呼ばれます。
「自分の業績など後世のものが、どのようにでも判断しろ」というのです。
武帝は、今までの皇帝が成し遂げることができなかった、北方の騎馬民族、匈奴を打倒し、ここ泰山で天の神、地の神を奉り、国の長久を祈る、封禅の儀式を行いました。この時、日本は弥生といわれる時代でした。この封禅の儀式は、秦の始皇帝(在位:紀元前246~221年)が初めて泰山で行い、歴代の皇帝は、それにならいました。

玉皇頂付近の岩の上には、黄色いレンギョウが咲いています。レンギョウの仲間は、日本にも小豆島レンギョウなどの自生がありますが、小豆島で一番高い場所の断崖に生えていました。ごくわずかな量しかなく、自生地が限定される希少樹種のひとつです。これらは、栽培、植栽以外に生えていることを確認することは、難しいでしょう。泰山のレンギョウは、花弁が丸いレンギョウForsythia suspensa モクセイ科そのものが生えていました。

早春の花木としてあまりにも有名なレンギョウ 連翹Forsythia suspense モクセイ科フォルシシア属は、東アジア、中国の華北などの山中に自生します。属名のForsythia(フォルシシア)は、19世紀のスコットランドの園芸家William Forsyth(ウイリアム フォーサイス)氏にちなむものです。彼はイギリスで初めてロックガーデンを作ったといわれ、精力的にアジアの植物を集めたと記録されています。昔から大陸と交流のあった日本には、ヨーロッパに伝わるはるか以前の17世紀に伝わり、植栽されたといいます。

レンギョウForsythia suspensa。種形容語のsuspensa(サスペンサ)とは、枝が垂れることを意味しています。

シリンガ ブルガリスSyringa vulgarisは、バルカン半島の岩山に原生し、ライラックともリラとも呼ばれ、広くヨーロッパで植栽される落葉樹です。泰山には、シリンガ オブラータ 華北紫丁香 Syringa oblataモクセイ科が咲きます。それはライラックに近縁の種で、東アジアでは「紫丁香」と呼ばれます。

シリンガ オブラータ 華北紫丁香 Syringa oblata。種形容語 のoblata(オブラータ)とは、葉の形が倒披針形(とうひしんけい)であることを表します。難しい専門用語ですが、葉の基部より上の方の幅が広く、先がとがっているという意味です。

原生株には色幅があり、白花も散見されます。日当たりを好むらしく、茂みにはなく岩壁や断崖に生えていました。

泰山の頂上付近の岩壁には、さまざまな花木がへばり付いています。カイドウやレンギョウ、シリンガ オブラータ以外にもさまざまな花木があり、四季折々に花を咲かせているのでしょう。日本を含め東アジアはユーラシア大陸の東岸にあり、熱帯集束帯の上昇気流によってできる雲が偏西風に流されてきます。その低気圧は陸地にそって蛇行しながら北上します。ここは四季を通じて降雨があり、宿根草や樹木の生育にとって必要な水環境があります。それは大陸東岸気候と呼ばれ、園芸世界で愛される花木原種の主な故郷です。

後編では、泰山の草本について見てみたいと思います。

JADMA

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