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泰山のフローラ[後編] ムラサキハナナとクロバナオダマキ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

泰山のフローラ[後編] ムラサキハナナとクロバナオダマキ

2016/03/01

泰山では美しい東アジア的大陸東岸の花木類に見とれましたが、草本類が生えていないわけではありません。目についた草花をいくつかご紹介したいと思います。

頂上付近の岩壁にはムラサキハナナOrychophragmus violaceus(オリコフラグマス ビオラセウス)アブラナ科オオアラセイトウ属が咲いていました。この植物は江戸時代に日本に伝わり、各地で帰化しており花を見ることができますが、栽培のため自分でタネをまくと意外と気難しいところがあり、うまく咲かない場合が多いものです。一度花を咲かせてタネがこぼれると、その場所に居ついて毎年花を咲かせてくれます。

この植物の元々の自生地である中国では、主に華北や東北に原生し、「二月藍」と呼ばれています。泰山では標高1000m以上の岩壁に群生していました。私が見てきた限りにおいて、それは雑草然とした植物ではなく、野の花といったイメージです。ムラサキハナナOrychophragmus violaceusアブラナ科オオアラセイトウ属。種形容語violaceus(ビオラセウス)はスミレ色の花色を表します。

同じように頂上付近の岩の隙間には、アクレギア ビィリデフローラAquilegia viridiflora キンポウゲ科オダマキ属が咲いていました。シベリアからモンゴル、中国北東部に原生するオダマキです。

アクレギア ビィリデフローラAquilegia viridifloraは、園芸名を黒花オダマキとかいって珍重されます。地味な花ですね! 種形容語のviridifloraとはベルデ(緑)を表しますが、色は赤紫色です。このような色合いも花粉を媒介する虫たちには魅力的に見えるのでしょう。

アクレギア ビィリデフローラ(黒花オダマキ)Aquilegia viridifloraと競うように、岩盤にワスレナグサMyosotis属がへばりつきます。華北にはエゾムラサキMyosotis sylvaticaが自生していますが、私にはヨーロッパの山地に生え、園芸化されているMyosotis alpestrisに見えるのです。だとすれば、移入種だと思います。残念ながら種の同定には至っていません。

8合目あたりの参道の壁面に、違う青い花を見つけました。ヤマエンゴサクCorydalis linearilobaケシ科キケマン属。日本では本州から西に自生し、朝鮮半島~中国華北、東北地方に自生します。2~2.5cm程度の筒状の花を咲かせ、花弁は虫が止まりやすい唇弁です。筒の先は距といわれ、蜜を貯めています。

バットマンのロゴみたいな葉をつける植物。誰の命名か「コウモリカズラ」。言い得て妙な植物です。つる性の落葉性木本で、中腹の林縁に生えていました。コウモリカズラ(蝙蝠葛)Menispermum dauricum(メニスペルムム ダウリカム)ツヅラフジ科コウモリカズラ属。

コウモウリカズラは山地に自生するつる性の落葉性木本です。日本を含む東アジアとシベリアに自生します。種形容語のdauricus とは、中露が領有権を主張した、ダフリア(アムール川の沿岸)地方にちなみます。

カラスビャクシの親分みたいな風情で、林縁にニョキニョキと花を立ち上げます。海外のナーセリーでは、「グリーンドラゴン」と名づけて販売していますが、あまり好んで庭に植えたいとは思わない植物だと思います。ショウヨウハンゲ(掌葉半夏)Pinellia pedatisecta(ピネリア ペダティセクタ)サトイモ科ハンゲ属。この植物は日本のハンゲ属とは違い、付属体といわれる円錐花序がまっすぐです。中国の華北などに広く分布し、泰山では標高の低い場所の林縁に生えていました。種形容語のpedatisectaとは、鳥の足のような葉の形を表します。

次回は、この地域に残存している裸子植物の中で、スギの仲間について考えてみたいと思います。

JADMA

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