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世界一のイブキ[前編] ビャクシン属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界一のイブキ[前編] ビャクシン属

2016/05/24

「本樹を見ずして、巨木を語ることなかれ」
宮 誠而氏の著書『日本一の巨木図鑑』(発行:文一総合出版)には、そのように書いてありました。その言葉がいつまでも心に残り、巨木と聞くと心のときめく私は、居ても立ってもいられず、高松からフェリーに乗って小豆島に上陸しました。

その木は一本で森を成し、樹勢は止まることなし、宇宙を語るような荘厳な存在感をもっていました。宝生院のシンパク(真柏)。樹齢1500年、日本国指定の特別天然記念物です。

この植物を語る前に、今回はイブキ(ビャクシン)Juniperus chinensisヒノキ科ビャクシン属とその仲間の素顔を垣間見ることにしましょう。

イブキ(ビャクシン)を知るには、この植物を知る必要があります。ネズJuniperus rigida(ジュニパーラス リキダ)ヒノキ科ビャクシン属は、別名をネズミサシといい、園芸的には杜松(トショウ)といいます。中国ではこの仲間を総称して柏(パク)と呼び、位の高い木とされます。環境耐性が高く、日当たりさえよければ厳しい環境に耐える、長寿の木でもあります。日本では尾根筋などの日当たりと風通しのよい、やせ地で見ることがあります。本州以西から東アジアの温暖地に生えるビャクシン属です。

ネズJuniperus rigidaの種形容語rigidaは針葉が固く粗いことにちなみます。この葉に触れるとけっこう痛いので触りたくありません。ネズミの通り道に置いて、その害を防ぐという意味でネズミサシとも呼ばれます。また、ジンという酒のあの香りは、ヨーロッパネズの実を蒸留酒につけたものです。

ネズミサシの、強い潮風の吹きつける海岸に適応して地を這うように生育するようになった変種が、ハイネズという植物です。こちらも針葉がとがり、葉に触れると痛いです。ハイネズは海岸に行くとわりと普通に見られ、造園緑化などにも使われます。

ハイネズのとなりには、今回の主題であるイブキ(ビャクシン)Juniperus chinensis(ジュニパーラス シネンシス)が生えています。種形容語chinensisは中国を表しますが、本州から温暖な東アジアの磯などに自生します。画像を見るとわかると思いますが、とにかく日当たり、風通しのよさを好み、他の条件はあまり苦にしない植物です。

イブキ(ビャクシン)は、葉を強い日ざしや塩分飛沫に対応させ、鱗片状に進化させました。そして、葉のついた枝葉はすべて上に向かってねじれるように伸び、美しい円錐状の樹冠を作ります。おそらく、ねじりを入れた方が強い風に対して物理的に強くなるのでしょう。その姿は緑の炎が揺らめくように見えもします。

イブキ(ビャクシン)の葉です。魚の鱗(うろこ)のようですね。同属のネズミサシとはかなり違う形状です。

イブキ(ビャクシン)は、ネズミサシのような細い針葉と、魚の鱗のような鱗片葉をもっています。そして、針葉から老成するにしたがい、鱗状に葉を変化させていきます。このようすから、ネズミサシが海岸に適応するために進んだ道が、私の勝手な推測ではありますが…
1、地を這うスタイル→ハイネズ
2、葉を変化させ鱗を作り、強い風と塩分飛沫から防除するスタイル→イブキ(ビャクシン) 
といった道だったのかも知れません。

イブキ(ビャクシン)の針葉が鱗片葉に変わっていくようすです。

次回は「[後編] シンパクとも言われる、精神世界を表現するような造形を見せるイブキ(ビャクシン)の老木。そして、特別天然記念物になった巨木、世界一大きなイブキ(ビャクシン)」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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