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世界一のイブキ[後編] ビャクシン属

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

世界一のイブキ[後編] ビャクシン属

2016/05/31

いよいよ[後編]では、世界一のイブキ(ビャクシン)が登場します。東アジア各地のイブキ(ビャクシン)を紹介するなかで、「シンパク」という呼称も出てきますが、漢字の表記では「真柏」です。逆さにすると「柏真(ビャクシン)」となり、イブキ(ビャクシン)と同意語と解釈いただければよいと思います。

中国の巨木の聖地と聞いていた、山東省曲阜市、孔廟。建物は中国で紫禁城につぐ大きさの木造建築です。曲阜市は、岐阜県の名前の由来となった孔子ゆかりの史跡都市、世界遺産として知られています。孔子は紀元前の教育者。その教えは儒学と呼ばれる体系に整えられ、後世に引き継がれて、いまだ大きな影響力を発揮しています。

孔子を祭る孔廟の敷地は16ha。周りにはイブキ(ビャクシン)が多く植えられています。その中に龍木といわれるイブキ(ビャクシン)があり、ひときわ異彩を放ちます。植えられている木は、どれも何百年と思われる古木ですが、あまり感動しませんでした。どれも作り物のようで、なぜかしら生気を感じることができません。それは中国の圧倒的な人の数によって根元が踏み固められていて、樹勢が弱いからでした。

日本の瀬戸内で見たイブキ(ビャクシン)の古木です。全体に生気がみなぎり、魂ぱくあふれる樹でした。ねじれるように成長し、樹皮がはがれた後に出る文様が芸術的です。

これが世界一のイブキ(ビャクシン)の全体像です。1本で森を成し、見た瞬間に「おー!」と声を上げてしまいました。

それは、宝生院シンパクと呼ばれるイブキ(ビャクシン)の巨木です。推定樹齢1500年、根元周囲は16.6m、樹高20m。地上1mで3方向に枝分かれしています。それぞれの幹周を合計すると19.3m。堂々とした風格は、宇宙的で神性さえ感じさせるものでした。「本樹を見ずして巨木を語ること無かれ」私もそのように思いました。

筆者が枝分かれした1本の幹のそばにいるので、大きさがわかると思います。地元では公式発表より樹齢がやや古く、西暦5世紀の第15代応神天皇のお手植え、樹齢1600年と聞きました。

温暖な東アジアの海岸に自生したイブキ(ビャクシン)は、古代には炊飯に盛んに用いられたようです。イブキには、「伊吹」や「息吹」の字が当てられ、語源については諸説がありますが、炊飯に用いられ、湯気が噴き出すところ、息吹のパッキンにイブキ(ビャクシン)の枝や鱗片葉が使われたのが、イブキの語源という説が、説得力があります。自生地で見るイブキは皆、小さなものです。東アジアの国々において、人々の生活に使われ、多くの木が犠牲なったのでしょう。老木はほとんど各地に残っていません。そして、中国では巨木を敬う習慣は見当たりません。日本の神仏にまもられたイブキ(ビャクシン)の巨木がその神々しさを今に伝えています。宝生院シンパクが、世界一のイブキ(ビャクシン)と言いきる、地元の方々の主張に賛同します。

次回は「Under the Happiness Tree[前編]福木」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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