小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
Under the Happiness Tree[前編] 福木
2016/06/07
自然の中で暮すことは、自然のやさしさと同時に怖さを感じることだと思います。潮騒や雨が打ちつける音、風の音、動物の鳴き声などは、暗闇の中で聞くと不安で恐ろしげなものです。
自然を愛する気持ちと自然を畏れることは、いつも隣り合わせにあり、さまざまな神仏の存在や言い伝え、迷信、風水などを生んできたのだと思います。
南方の古民家に行くとさまざまな魔よけが家に置かれています。あまりにも有名なシーサーや石敢當(いしがんとう)のお守り、火事よけのお呪いなどをよく見ます。そんな自然の中で精霊とともに暮らし、植物に抱かれる…。沖縄北部備瀬集落の暮らしを見てみたいと思います。
本部町です。沖縄の北部に備瀬という集落があります。そこは琉球首里王府の時代に地割りされた民家が碁盤のように並び、その区割りにフクギ(福木)約2万本が植えられました。それから250年の歳月がたち、成長の遅いフクギですが、今ではそこに住まう人々の暮らしを守る役割を担っています。
この辺りの民家には、狛犬みたいなシーサーが陣取り、風水のわるい場所には中国由来の石敢當のお守りが置かれています。
目の前の珊瑚の海ではこんな貝が採れ、殻を魔よけにします。スイジガイ(水字貝)Harpago chiragraスイショウガイ科ソデボラ属は、熱帯域に広く生息し、6本の突起があるので水の字に見えます。沖縄では水にちなむことから、火事よけのお守りにします。
備瀬のフクギの並木は3kmにも渡って続きます。これだけ多くのフクギが植えられた並木道は、世界的にも珍しく最大規模だと思います。そこは植物の慈愛に満ちたやさしい、やさしい空間です。「フクギ」という名前の由来は定かではありませんが、それがどのような意味をもつのか、わかる気がしました。英語でHappiness Treeというのも理解できます。
この並木のすぐ先には、青く輝く海が広がっていました。このような場所は台風の時に大きな影響を受けるはずです。フクギは成長が遅いかわりに材がとても堅ろうです。おまけに潮にも強く、防潮、防砂、防風に役立ちます。台風の通り道であるこの地域を、自然の猛威から守るために、昔の人々はフクギを植えたのです。
フクギ(福木)Garcinia subelliptica(ガルシニア サブエルリプティカ)フクギ科フクギ属は、世界の熱帯域に起源を持つ常緑樹です。茎葉は頑丈で幹はカチン、カチンです。例えれば、その触感は鉄筋コンクリート。これでは台風などでもかなわないと感じました。そんな緑の盾、緑の城壁が人々に安全をもたらし、安心を感じさせるのだと思います。「へぇー。そーなんだ、フクギ君」大した植物が世の中にあったものです。
次回は「Under the Happiness Tree[後編]福木」を取り上げる予定です。お楽しみに。