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連載

Under the Happiness Tree[後編] 福木

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Under the Happiness Tree[後編] 福木

2016/06/14

フクギの木の下で寝起きすることは、とても安心感に包まれる感じでした。暗いうちから起きだし、辺りを散歩すると、フクギ並木の通り道は前日の足跡さえなく、きれいに清掃され、ほうきの刷毛目までがきれいについているではありませんか! 
きっと夜中に、もっと暗いうちに掃除をしたのでしょう。それほどここの住民の方はフクギ並木を愛していて、手入れに余念がありません。この場所に住んでいるお年寄りに話をうかがいました。

備瀬のフクギ並木と、白い珊瑚の砂とが美しいコントラストを作ります。暗いうちから住民が清掃をして、ほうきの刷毛目で文様を描きます。

『沖縄をひと言でいうと「チャンプル(混ぜこぜ)」。ポリネシア、大陸、日本、それらのよい所をミックスして沖縄の文化になっている。フクギは大昔からの南蛮貿易によって、持ってきたものと言われている。今でこそ、沖縄の民家はコンクリートや瓦葺だが、昔は茅葺だった。風が強く火事になると辺りに燃え広がるのでフクギを植えた』というのです。

そういって、おじいは、燃え残ったフクギの幹を指差すのでした。フクギは成長が遅く、材が緻密で空気をあまり含まないため燃えにくいのです。フクギを屋敷に植えておくと、防火壁の役割を果たし、辺りに燃え広がるのを防ぐのだそうです。何ということでしょう。フクギは防火までを担う、守備範囲の広い植物だったのです。
左/フクギの堅牢な幹です。 
右/火事の炎はフクギを焼き尽くすことができませんでした。その類焼を防いだフクギの焼け跡です。

フクギ(福木)Garcinia subelliptica(ガルシニア サブエルリプティカ)フクギ科フクギ属の茎葉です。葉は対生で長さは10cmくらい、備瀬並木の樹齢250年とされる樹高は10mくらいでした。並木の下では、隣同士の木が葉を重ね合い、穏やかな木漏れ日を作ります。

右の写真は、フクギの果実。これが落ちて頭に当たると、えらく痛いのだそうです。フクギはGarcinia属です。この仲間には、甘味と酸味のバランスがよく、果物の女王と呼ばれるGarcinia mangostana(マンゴスチン)があります(左の写真)。フクギの実は沖縄では食べず、もっぱら大コウモリの食べ物となっています。

Under the Happiness Tree(フクギの木の下)で、結婚写真をとっている若いカップルがいました。珊瑚礁の海と白い砂、緑のフクギ並木の下で、希望に胸を膨らませていました。

フクギの連理木(レンリボク)です。唐の時代の詩人、白居易は男女の深い契り、仲むつまじいことを漢詩にしました。
在天願比翼鳥、在地願為連理枝(天に在っては願わくば比翼の鳥、地に在れば願わくば連理の枝とならん)
250年前にフクギを植えた人たちは、今はいません。きっと自分の子孫の幸福を祈ってフクギを植えたのだと思います。人のために木を植える、人々の幸せためにフクギを植えた人たちの行為は、きっと神にも等しいものだったと思います。並木のあっちこっちに連理木になったフクギを見ました。植物には人々の安心、安全を守り、男女の深い愛情を見守る、役割もあると言うことをフクギが語っています。

東アジア植物記は、今回で100号となりました。稚拙な連載ですが、お付き合いいただきありがとうございます。さまざまな植物との出合いを「一花一心」として見つめてきました。植物との長い付き合いですが、いまだに見たことのない草、知らない樹木ばかりです。いったい、どれだけの植物がこの世界に生まれ、そして消えていったのでしょうか? もし、許されるのならもう少し東アジアの植物に触れてみたいと思います。

JADMA

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