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連載

神農山の花々 丹参(タンジン)と山桃(サントウ)

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

神農山の花々 丹参(タンジン)と山桃(サントウ)

2016/07/12

中国の中西部黄河流域は小麦食文化圏です。食事にご飯はまず出てきません。数々の麺類、饅頭が主食です。それは米を作るには降水量が少なく、水が足りないからです。山地も乾ききっていて、日本のようなうっそうとした森や、苔から水が染み出すような湿潤な環境は少ないようです。
神農山の植物たちは乾燥に強く、遠志(イトヒメハギ)のように、地下茎などに薬理作用のある二次代謝物を貯める植物が多く自生しています。中国では、薬草学の歴史は古く、日本の弥生時代に『神農本草経』といわれる薬草書が作られました。 
農耕と薬学の祖といわれる神農を祭る神農山には、どのような植物が自生しているのでしょうか。

この山は日本ではほとんど知られていません。麓は針葉樹と広葉樹の疎林、中腹は切り立った岩壁、頂上はテーブルのような地形を特徴としています。

麓の森では中西部の山地に生える丹参(タンジン)が、低木の下草として生えていました。丈は50cm程度で、葉は羽状の複葉、根は太く赤色で内側は白。夏に青紫の花を咲かせる宿根草です。この植物の根を採取して中医薬に用います。その薬効は動脈硬化に関連する成人病の予防改善とされます。

丹参(タンジン)Salvia miltiorrhiza(サルビア ミルティオルリヒザ)シソ科サルビア属。和名はありません。英名はChinese sageといいます。「丹」とは赤い色を表し、「参」とは人参を意味します。丹参はこの青いサルビアの根が人参のように赤く、薬用であることを表します。種形容語のmiltiorrhiza(ミルティオルリヒザ)とは、この植物の根が赤いことを表します。

丹参はシソ科で、山野草としては意外と大きな花を付けます。シソ科のことを中国では唇形科といいます。唇(くちびる)状の花を付ける科という意味です。この形を日本では唇弁と呼び、虫が下弁に止まると上弁にあるおしべやめしべに触れる仕組みです。

現代の果実桃はバラ科モモ属で、Amygdalus persica(アミグダルス ペルシカ)という学名です。種形容語のpersica(ペルシカ)はペルシャの意味とされますが、中国の歴史では、桃栽培は紀元前10世紀にさかのぼります。そして遺伝子解析の結果、桃は中国起源が示唆されたと聞きます。どの桃種が現代桃のルーツなのでしょうか。神農山には原種桃の1つである山桃(サントウ)が自生しています。写真は鄭州の市場で購入した現代の桃ですが、日本にはない頭のとがった桃でした。

山桃(サントウ)Amygdalus davidiana(アミグダルス ダビディアナ)バラ科の落葉の高木で、樹皮はヤマザクラのような暗紫色をしています。黄河流域の中西部省の山地に自生します。尾根筋、谷間、斜面など、さまざまな環境に生息していました。種形容語のDavidiana(ダビディアナ)とは中国の植物を採取したフランス人宣教師Armand David氏にちなみます。彼はジャイアントパンダをヨーロッパに紹介した人として知られています。

山桃(サントウ)を手にとってかじってみました。熟していないので食べられる代物ではありませんでした。果肉がほとんどなく、やたらと大きな種が入っています。この野生桃を見ていると、現代桃の素晴らしさを実感します。人々の営々とした品種改良の歴史のすごさが実感されます。この種の中身を取り出し、山桃仁(サントウニン)という中医薬にします。下腹部の臓器の炎症に効果とされます。

最後に、麓の荒地に生えていたケシ科の植物を紹介します。鮮やかなゴールデンカラーでコンパクト。花つきや花もちがよければ園芸植物にでもしたい草姿です。

葉、4枚の花弁、蕾、鞘を見ると、それは毒性が強いのですが、皮膚病治療に使うケシ科クサノオウ属の植物だと思います。しかし中国の文献などに見当たりません。また学名に記載されていない植物のようなのです。ケシ科クサノオウ属(白屈菜属)Chelidonium の一種としか分かりませんでした。

次回は「東アジア最古、最大とされる柏の話、将軍柏」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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