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だるまさんが転んだ[後編] 忍冬と群れ雀

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

だるまさんが転んだ[後編] 忍冬と群れ雀

2016/08/09

禅宗の開祖となった達磨は大師と呼ばれました。その後の足取りは分かっていません。達磨の修行を支えた庵を初祖庵といい、尼寺になっていました。そこの尼さんは人のよさが顔に出るような方で、中国語で話しかけてきました。そして、土産にと忍冬(スイカズラ)の花を遣すのでした。

達磨洞からほど近い麓にある初祖庵です。私より1つ年上の尼さん。にこやかに笑みをこぼしながら、中国語で何やら話しかけてきます。身振り手振りながら、彼女の言っていることが分かるようでした。

尼さんから頂いたのは、初祖庵の周辺に咲いている忍冬の花を摘んだものです。中国では花を食べたり、薬用にする習慣があり、この花も茶にして飲みます。花と蕾は金銀花という生薬になり、解熱作用があるとされています。

スイカズラLonicera japonicaスイカズラ科ロニセラ属は、日本全国の他、東アジア一体に生えるつる性常緑樹です。中国名を忍冬といい、花を摘まんで吸うと甘いので「吸いカズラ」といいます。この植物は英名でもhoney suckleといい、国が違っても同じことをしていることが伺えます。何もない時代は、子どもたちのよいおやつであったに違いありません。

初祖庵付近は乾燥に強い、河原欅(アキニレ)の林でした。アキニレUlmus parvifolia(ウルマス パルビフォリア)ニレ科ウルマス属。日本では東海地方以南に生え、東アジアの河原や荒地に生えるケヤキの仲間です。老成すると樹皮がモザイク状にはがれ、赤茶の地肌が見えます。達磨洞付近にも小さなアキニレがたくさん生えていました。種形容語のparvifoliaとは、葉が小さいことを表します。確かにケヤキに比べ小さな葉です。この木の若葉が食べれるというので、少し食べてみました。しかし、大しておいしいものではありませんでした。

標高を上げ、高木林を抜けると野生バラやナツメなどが生い茂っています。日当たりのよい斜面には、群れ雀(ムレスズメ)が花を咲かせていました。Caraganaマメ科カラガナ属。英語ではChinese peatreeといいます。カラガナ種は大陸の低木で、内モンゴルの乾燥地帯や雲南の3000mを超える峠など各地に自生し、いくつかの種を見ました。中原の植物資料は少なく、崇山に生えるカラガナ種の同定はできていません。

山の斜面にはクレマチス モンタナが白い小さな花を咲かせていました。中国の低山から高山の林縁や斜面に自生する4弁をもつクレマチスです。自生種は園芸種のように洗練されていませんでしたが、クレマチスの人気種であるモンタナに違いありません。この植物は、キンポウゲ科クレマチス属の落葉多年草で、学名はClematis montana。種形容語のmontanaとは山地性を意味します。河南省はおそらく分布の北限だと思います。

最後に少林寺の山門にあった不思議なイチョウ(銀杏)Ginkgo biloba(ギンゴー バイローバ)イチョウ科イチョウ属の木についての話です。そこには何本ものイチョウ千年木が生えていましたが、皆、一様に穴があいているのです。それは少林寺拳の修行の跡だったのです。手のひらで当てた跡で樹皮はツルツルになり、指を突いた跡でしょうか。深い穴が開いているのです。一体、どれだけの人がどれだけの力で押せば、このような穴が開くのでしょうか。ここのイチョウは樹齢1500年です。それは、少林寺が建立された時代と符合します。

禅宗は、達磨の弟子たちによって広まって行きました。同時に、達磨や弟子が修行の合間にやっていた体操が、少林寺拳の初めといわれます。唐の時代に少林寺の僧たちが、その武術をもって建国に寄与したことから、全国の武術家が少林寺に集まってきました。その後の兵家常戦、軍閥乱立の世の中に、僧侶も自らを守り、仏教を広め、権威を示すために僧兵をもち、武力をもつようになりました。それはきっと達磨大師が伝えた仏教の姿とは違ったはずです。


次回は「玄奘と西域の花」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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