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黄河山水草木譜[その1] ツクシイバラ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後も嘱託として勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

黄河山水草木譜[その1] ツクシイバラ

2016/09/27

黄河を見たことがない方でも、その名前は知っていることでしょう。文明は川のほとりに生まれました。悠久の中国文明もしかり、黄河なしに語れません。今回のシリーズは黄河流域の植物をつれづれに語りたいと思います。

どこまでが川で、どこからが海なのでしょう。黄河はぼう洋とし、海を埋め立て、その河口は毎年、沖に伸びていきます。今は中国最大の半島である山東半島の北で渤海(ぼっかい)に注ぎ、その昔は数百kmも南の半島南部で黄海に直接注いでいました。黄河は、中原をウネウネと竜のように暴れる川だったのです。その歴史の中で南へ北へ流れを変え、人々に災難を与え、そして恵みを与えてきたのです。

黄河は世界一の川です。それは水量でも、長さでも、流域面積でもありません。河川水に含まれる土砂の量が世界一なのです。年間16億tもの土砂を運ぶ泥の川です。あまりにも天文学的な数字なので私には見当もつきません。黄河の岸辺に下りると、痩せた大地に肥沃な土壌を運ぶ、恵みの川であることも分かりました。

水は山を削り、谷を作ります。黄河は大陸から遠い海洋底で静かに堆積した、硬いチャート岩の地域に峡谷を作りました。

乾燥した土地柄の黄河中流域において、水が豊富に流れる山水区が龍潭峡(りゅうたんきょう)と呼ばれる峡谷です。ここは大陸らしいダイナミックな地形が刻まれ、昔ながらの中国中西部の植物が見られました。

まず目に留まったのは美しいバラです。ツクシイバラRosa multiflora var. adenochaeta (ロサ ムルティフォローラ バラエティ アデノカエタ)バラ科バラ属。種形容語multifloraは、たくさんの花を咲かせることを意味します。var.は変種や品種を表しますので、Rosa multifloraのadenochaetaという変種です。adenochaetaは花柄に腺毛や刺のある毛があるという意味です。

Rosa multiflora種ということは、私たちの身近にある、あのノイバラと同じ種ということです。花は5cm程度もありノイバラの倍の大きさです。こんなきれいなノイバラが大陸には普通に生えているのです。中国の人たちはこのバラには目もくれません。

和名ツクシイバラとは筑紫を表し、九州地方などに自生している野生のバラです。九州に自生しているといっても、生えている場所は少なく限定的です。地域では絶滅危惧種の指定を受けている希少なバラです。ノイバラに似ていますが、全体に大柄で、花の色は白または薄いピンク色、そして紅色です。

日本のノイバラは、野原や河川敷などで良く見られます。丈夫で病気に強く、一度生えると根絶が困難なほどです。そして現代園芸バラの台木には、その性質を利用します。ツクシイバラも同様で、園芸台木に適しているため台木として盗掘され、日本では数を減らしたと聞いています。

ツクシイバラは日本が南部で大陸と繋がっていた時代に日本に進出してきたのでしょう。そして大陸から離れたとき日本の南部に取り残されたのだと思います。このバラは日本では、絶滅が危惧される希少な植物ですが、大陸では普通に生えている植物です。そうした事例は多くの植物でも見ることができます。

次回は「黄河山水草木譜[後編]」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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