小杉 波留夫
こすぎ はるお
サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。
黄河山水草木譜[その3] チュウゴクニンジンボク
2016/10/11
どこの国でも身近に咲く花には、興味が薄いようです。
綺麗な花でも原生地では、雑草であったり野の花であったりするので、その魅力と美しさに気が付かないのかもしれません。
チュウゴクニンジンボクVitex cannabifolia(カンナビフォリア)シソ科ハマゴウ属は、黄河流域の河北、山東、河南等の山地、荒地や路傍に生える落葉の低木です。夏に爽やかな青い色で辺りを染める植物ですが、中国の人でこの植物に興味を示す人はいません。
写真は、山東省の翠瓶山に咲くチュウゴクニンジンボクです。特定の山に咲く希少な植物ではなく、人の手の入った二次林の日当たりが良い場所に生える雑草、雑木的植物です。
花を見ると、日本の暖地海岸に生えるハマゴウと良く似ています。そのほとんどは、薄いラベンダー色の鈍い花色なのですが、原生地でこの植物を観察すると花色の濃い株も見つかります。
こちらは、ピンク色の花です。花色はラベンダー色が基本ですが、ピンク、ブルーピンク、ホワイトの4系統に分かれ、草姿も色々あります。小さな株でも花が咲いていましたので、実生で小さなうちから咲きそうです。
ところで、和名のチュウゴクニンジンボクとは、葉がチョウセンニンジンに似ていることに由来します。普段食べるニンジンではなく、漢方のニンジンです。
写真は、日本にも自生しているトチバニンジンPanax japonicus(パナクス ヤポニカス)ウコギ科トチバニンジン属の実と葉です。チュウゴクニンジンボクの葉に似ているのが分かりますか?
チュウゴクニンジンボクの学名は、Vitex cannabifolia(ビテックス カンナビフォリア)です。種形容語のcannabifoliaとは、昔から人々の生活に密接に関わってきたCannabis sativa(カンナビス・サティバ)アサ(麻)に葉の形が似ていることを表します。
翠瓶山の頂には、いつの時代の建物か定かではない多仏搭があり、人のすみかになっていました。
チュウゴクニンジンボクがたくさん生えるこの山では、養蜂家達によって蜂蜜が生産されています。
チュゴクニンジンボクは、過酷な環境に耐え、かわいらしい色合いとその草姿で、園芸植物としての可能性を示しているだけでなく、有用な蜜源植物として利用されるでしょう。味はさらっとしていていながら、独特の風味があります。
世界中が狭くなり、色々な植物が汲みつくされているように見えても、植物開発の余地はまだまだ残っているように思えてなりません。
次回は「黄河山水草木譜[その4]」を取り上げる予定です。お楽しみに。