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連載

カルストの大地[その2] カノコソウ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

カルストの大地[その2] カノコソウ

2016/11/01

福岡県にある平尾台のカルスト草原を維持するため、人によって野焼きが行われています。放置すると強壮な宿根草や樹木によって草原が遷移していくからです。雨の多い日本の草原の多くは、そのような人の介在などによって成り立っています。

晩秋になると野焼きが始まります。火を入れると草原の景観は一変し、強壮な宿根草類の上部構造がリセットされるのです。全てを焼き尽くす炎も地下部分の温度は上げません。従って土の中に栄養器官のある植物や、硬い種皮で保護されているタネは生き残り、植物種の持続的な生息が可能になるわけです。

火入れは焼畑と同じ原理で、植物が集めた元素が土に戻されます。草木灰の主要成分はカリウム(K)です。それは植物がカリウムを必要としているので、広く根を張り、大地のカリウムを集めるからです。この草木灰を肥料として、春になると一斉に焼け跡の中から植物たちが芽を出して成長していきます。

次の春、まだ焼け跡の残る平尾台のカルスト草原では、いち早くオカオグルマが鮮やかな黄色の花を咲かせていました。

オカオグルマSenecio integrifolius(セネシオ インテグリフォリユス)キク科キオン属。東アジアの日当たりのよい乾燥した草地に生える植物です。種形容語のintegrifoliusとは鋸歯のない全縁の葉を表します。オカオグルマは茎葉全体に白い毛が密生し、ロゼット葉から10cm程度の花茎を立ち上げ、4cmほどの目立つ花を付けます。

同じように焼け跡の残る尾根付近にはホタルカズラLithospermum zollingeri(リソスペルマム ツオーリンゲリー)ムラサキ科リソスペルマム属も咲きました。東アジアの日当たりのよい乾燥した草地に生える植物です。

ホタルカズラの花の大きさは1.5cmほどあり、ムラサキ科の中ではダントツの大きさです。コバルトブルーの花には星型に白い線が盛り上がり、なかなかきれいな花です。全体に細かい毛が生えていて、シュートを伸ばすので蛍蔓(ホタルカズラ)と呼ばれます。種形容語のzollingeriはオランダの植物学者Heinrich zollinger(ハインリッヒ ツオーリンゲル)氏に因みます。

火入れをした草原にわりと早くから咲き始める植物の一つが、このカノコソウValeriana fauriei(バレリアナ フォーリィー)オミナエシ科バレリアナ属です。この植物も大陸残存型植物といっても良いと思います。東アジアの山地草地に広範囲に自生しますが、日本ではめったに見ることはありません。それもそのはずで、多くの都道府県で絶滅もしくは絶滅危惧種になっている多年草だからです。

カノコソウは、蕾がピンクでかわいらしい花を付けます。夏に咲くあの黄色いオミナエシの仲間です。花は咲き進むと色は薄くなっていきます。とても愛らしい植物ですね。平尾台にはうれしいことに雑草のようにたくさん生えます。

カノコソウの葉は羽状で先がとがった鋸歯があり、対生です。根出葉から50cm程度の花茎を伸ばして春に開花します。種形容語のfaurieiとは19~20世紀にかけて日本の植物を研究したフランス人であるUrbain Jean Faurie(ウルバイン ジャン フォーリー)氏に因みます。

カノコソウが生えているすぐそばには、底知れない縦穴が開いていました。植物観察に夢中になって落とし穴に落ちては大変です。そのような縦穴地形もカルスト台地の特徴の一つになっています。

次回は「カルストの大地[その3]」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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