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連載

カルストの大地[その3] ノヒメユリ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

カルストの大地[その3] ノヒメユリ

2016/11/08

福岡県にある平尾台には何度か足を運びましたが、良い天気ばかりではありませんでした。ボタニカルハイキングには雨降りも想定しなければいけません。雨は空気中の二酸化炭素を溶かして降るので微炭酸水です。炭酸は酸ですから酸性なのです。カルスト台地の縦穴は、雨水などで石灰岩が溶解されてできるものです。

台地に降る雨は石灰岩の隙間に吸い込まれますが、くぼ地に集められて小さな川を作る場合もあります。

平尾台で私が見た川は平地には流れていきませんでした。地上に開いた石灰岩の穴に滝となって落ちていきます。このくぼ地の周りは湿度100%。その湿気は木々を茂らせ、周りはうっそうとしています。

その滝に滝つぼはありません。それは石灰岩台地に吸い込まれるからです。平尾台には地下河川があり、その流れは下に鍾乳洞をつくっています。さらに水は周りを侵食し、空洞を広げていきます。

空洞が大きくなると台地は落とし穴のように落ち込み、大小さまざまなすり鉢状の落ち込み穴、ドリーネ(doline)ができます。

平尾台のドリーネの周りには、国内では最小のユリであるノヒメユリが咲いています。ノヒメユリは別名をスゲユリ(菅百合)といいます。ヒメユリと区別するため、スゲユリの呼称の方がよろしいかと思います。

ノヒメユリ(スゲユリ)Lilium callosum(リリーム カロースム)ユリ科ユリ属。水はけが良く、日当たりのよい東アジアの山地草原に生える小型のユリです。別名のスゲユリは草原のカヤやオギなどと一緒に生える生態からの命名からです。種形容語callosumはカルス(塊)を意味しますが、真意は分かりませんでした。

スゲユリの草丈は人間の背丈ほどもあり、ヒョロとして草むらの中に突出します。そして上部に目立つオレンジ色の花を付けます。

スゲユリのタネです。ユリの中では小さなタネです。タネには風で遠くまで飛ぶようにウイング(翼)が付いています。ヤマユリなどはタネをまいてから花が咲くまで数年の月日を要しますが、スゲユリは少し早く開花する種類らしいのです。手のひらのタネはスゲユリのタネが育つのに適した場所に埋めてきました。

スゲユリの葉は細く、花は下向きに反り返ります。花色はソフトなオレンジ色で斑紋はありません。大きさは日本最小で4cm程度の小ささです。この植物も平尾台に生える珍しい植物の一つで、大陸とつながっていた時代の残存種です。東アジアの大陸には広範囲に自生しますが、日本での分布は四国、九州、沖縄に限定的に生える絶滅危惧ⅠB類 に属する希少なユリです。

次回は「カルストの大地[その4]」を取り上げる予定です。お楽しみに。

JADMA

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